ストックオプション(新株予約権)は、発行時に「いつでも自由に行使できる」わけではありません。
多くの企業は、一定の条件を満たした場合にのみSOを行使できるよう設計しています。これが「行使条件」です。
本コラムでは、ストックオプション設計における行使条件の基本と、実務でよく用いられるパターン、法務・税務上の注意点をFAQ形式で解説します。
Q1:行使条件とは何ですか?
行使条件とは、ストックオプションの保有者がその権利を実際に行使できるかどうかを左右する法的・実務的な制限条件です。
代表的な行使条件は以下のようなものです。
行使条件の種類 | 内容 |
---|---|
勤続条件 | 一定期間以上勤務した場合のみ行使可(例:付与から2年以上) |
業績条件 | 売上高・利益・KPI等を達成した場合に行使可 |
イベント条件 | IPO、M&Aなど一定の企業イベント発生時にのみ行使可 |
トリガー条件 | 所定期間経過後に一括して行使可(クローズド期間設定など) |
Q2:行使条件は必ず設定しなければなりませんか?
必須ではありませんが、設定が推奨されます。
行使条件を設定しないと、付与直後にすべて行使されてしまい、
- 株式の大量発行による希薄化リスク
- インセンティブ効果の形骸化
- 組織統制上の支障(退職者による即時行使等)
などの問題が生じやすくなります。
Q3:実務でよく使われる行使条件の設計パターンは?
特にスタートアップや上場準備企業でよく採用される設計例は以下のとおりです。
【パターン1】「ベスティング(Vesting)型」
- 例:付与日から1年後に25%、その後毎年25%ずつ行使可能
- メリット:貢献度に応じて段階的に権利を与えられる
【パターン2】「イベント連動型」
- 例:IPOまたはM&Aが実行された場合に限り全権利が行使可能
- メリット:会社のExitと報酬実現を連動させやすい
【パターン3】「退職時失効型」
- 例:退職または解任された場合には未行使分はすべて失効
- メリット:在籍中のみインセンティブを機能させられる
Q4:行使条件を契約書や登記にどう記載すべき?
【契約書】
新株予約権割当契約書には、具体的な行使条件・発生時期・失効条項などを明確に記載する必要があります。
特に次のような条件は、契約上も明文化しておくことが実務上不可欠です:
- 在職期間要件(例:付与後2年経過後に行使可)
- 業績条件(例:売上○億円以上達成時に行使可)
- イベント条件(例:IPO完了時にのみ行使可)
- 退職・死亡時の失効条件
【登記】
行使条件は登記事項です。新株予約権を発行する際には、登記申請書に行使の条件とその内容を具体的に記載する必要があります。
例:「新株予約権の行使の条件 当該新株予約権の割当日から2年を経過した日以後に限り行使することができる。」
Q5:税務上、行使条件をつけると問題になりますか?
原則として、行使条件の存在自体が税務上の問題になることはありません。
ただし以下の点に留意が必要です。
税務論点 | 留意点 |
---|---|
税制適格SOとの関係 | 税制適格SOでは、行使可能期間の制限(2年~10年)があるため、あまりに厳しい条件は適格性を損なうおそれがあります。 |
有償SOの場合の価値算定 | 行使条件によって新株予約権の評価額が変動するため、適切なオプション評価モデルの選定(BS法等)が必要です。 |
業績条件の不明瞭さ | 税務調査時に曖昧な条件では報酬性が疑われるリスクがあります。契約書での明確化が重要です。 |
まとめ
ストックオプションの行使条件は、制度のインセンティブ効果とガバナンスを両立させるための最重要項目です。
法的拘束力・登記対応・税務影響まで見越した上で、シンプルかつ合理的な設計を行うことが、実務上のトラブル回避につながります。
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