はじめに
かつて非上場企業を中心に普及していた「信託型ストックオプション」。
しかし、近年の法制度や税務当局の見解の変化により、2020年代以降は制度設計そのものが困難になり、実務からは姿を消しつつあります。
本コラムでは、信託型ストックオプションの基本構造と廃れた理由、そして代替スキームについて、FAQ形式で解説します。
Q1:信託型ストックオプションとは?
信託型ストックオプションとは、以下のようなスキームです。
- 会社が新株予約権を信託会社などの受託者に一括で付与
- 信託契約に基づき、対象者が将来的に条件を満たすと権利を取得
- 権利行使により株式を取得する仕組み
ポイントは、SOを直接付与せず、信託を介して柔軟に運用することができる点です。
Q2:なぜ以前は使われていたの?
次のようなメリットが注目されていました。
- 対象者の事前確定が不要 → 柔軟な付与
- 資金負担がない → 従業員にとっても導入しやすい
- 一括登記・発行処理ができる → 事務効率が高い
また、税制適格SOに準じる扱いが可能と考えられていた時期もあり、実務上多くのスタートアップで導入されました。
Q3:なぜ現在は使われなくなったの?
税務当局の見解が明確に確定したためです。
- 国税庁は2020年ごろから「信託型SOは、形式的に無償でも実質的に報酬性がある」との立場を明示
- 実質的な給与課税が発生する可能性が高くなり、制度としての安定性が失われた
- 法務面でも「SOの実体が不明確」「割当対象者が未確定」などの問題から登記・契約上の不整合が生じやすい
これにより、現在では制度的に“封印された”スキームと位置づけられています。
Q4:代替スキームはありますか?
はい。近年は以下のような手法にシフトしています。
代替案 | 特徴 |
---|---|
有償ストックオプション | フェアバリューで有償発行することで報酬性を排除しやすい。税務リスクが低い。 |
税制適格SO(無償) | 要件を満たすことで課税繰延+低税率適用可能。役員・従業員限定。 |
株式譲渡制限型SO | 行使後の譲渡に制限をつけることで、インセンティブと統制を両立 |
J-ESOP(信託型株式給付信託) | 上場企業中心だが、信託を通じた株式給付制度として普及中 |
Q5:信託を一切使えないわけではない?
使えますが、“SOの付与”そのものには使うべきではありません。
たとえば、以下のようなケースでは依然として信託が有効です。
- 株式譲渡の制御(持株会運営など)
- 自社株管理・行使後の株式交付管理
- 従業員持株インセンティブとしての給付信託(J-ESOPなど)
→ つまり、「信託型SO」という構造での付与スキームは実務上困難ですが、信託という制度自体は有効に活用できる場面が残っています。
まとめ
- 信託型ストックオプションは、税務・法務リスクの高まりにより現在は実務で利用されていない
- 代替としては、有償SOや税制適格SOが主流に
- 信託制度自体は、持株会・株式給付スキームなどで引き続き有効
ストックオプション制度の設計にお悩みの企業様へ
当法人では、最新の法務・税務・登記実務に対応したSOスキームの設計から実行まで、専門家チームが一貫して支援しております。旧制度からの移行設計についてもお気軽にご相談ください。