スタートアップや非上場会社を中心に、有償ストックオプション(有償SO)を導入する企業が増えています。
しかし、「発行価額(払込金額)=相当額」をいくらにすべきか?という問題は、会計・税務・ファイナンスの観点からも極めて重要です。
このコラムでは、有償SOにおける「相当額」の設定方法や留意点をFAQ形式で解説します。
Q1:有償SOの「相当額」とは何を指しますか?
「相当額」とは、新株予約権を有償で発行する場合に、付与対象者が支払うべき金額(払込金額)を指します。
これは、新株予約権の“公正な価値(フェアバリュー)”に相当する額として設定されるべきとされており、
- あまりに低額であれば「贈与」や「役員報酬」扱いとなるリスク
- あまりに高額であれば行使インセンティブを失う
という両面から、バランスの取れた設計が求められます。
Q2:「相当額」はどうやって決めるのですか?
原則として、ストックオプションの公正価値(フェアバリュー)を数理モデルで算定し、それをもとに発行価額を決定します。
代表的な評価手法には以下があります。
評価モデル | 内容 |
---|---|
ブラック=ショールズ・モデル | 上場企業や将来上場予定企業で広く用いられるモデル。オプションの理論価値を算出 |
二項モデル | ストックオプション特有の制限(権利不行使リスク等)を加味しやすい |
モンテカルロ法 | 複雑な条件付きSOの評価に利用される(上場企業での使用が主) |
→ 非上場企業では、専門家(公認会計士・評価機関)によるフェアバリュー評価書の取得が望ましいとされています。
Q3:「相当額」は任意で決められるのでは?
会社法上は、任意に決定できます。
新株予約権の発行価額(有償の額)は、会社法第246条以下により取締役会の決議事項とされており、算定方法の明文規定はありません。
ただし、以下のようなリスクが伴います。
- 税務上「著しく低廉な価格」と判断されるとみなし給与課税の対象に(所得税・源泉徴収)
- 会計上も「本来の公正価値と著しく乖離した価額」であれば、費用認識や開示上の問題になる
→ そのため、形式上は自由でも、実質的には公正価値に基づく発行が実務上不可欠です。
Q4:有償SOと税制適格SOは併用できますか?
基本的には不可です。
税制適格ストックオプション制度(所得税法29条の2)の適用を受けるためには、
- 無償発行であること
- 行使価額が一定の範囲内であること
といった条件があり、有償での発行は適格要件に抵触します。
→ 有償SOは、税制非適格SOとして設計されることが前提となります。
Q5:評価書がない場合、どのように「相当額」を説明すべき?
評価書を取得できない場合でも、以下のような対応が最低限求められます。
- 発行株式数・純資産・直近の資金調達条件などに基づいた類似会社比較法的評価
- 監査法人や税理士による意見書の取得
- 発行要項における算定根拠の明示
→ これらを株主総会議事録や発行要項に付記し、社内・対外的説明責任を果たせる形に整備することが肝要です。
まとめ
- 有償SOの「相当額」は、公正価値(フェアバリュー)を基礎に算定するのが原則
- 税務・会計・登記・株主対応の観点からも、数理モデル等による適正評価が必須
- 自社で判断が難しい場合は、第三者による評価書取得が最も安全な対応
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