非上場企業において、企業価値や株価を算定することはさまざまな場面で必要となります。株式市場で取引される上場企業とは異なり、非上場企業の株価は市場価格がないため、客観的な算定方法を用いて適正な価格を導き出す必要があります。
本記事では、「非上場企業の株価算定が求められる場面」、「株価算定の具体的な方法」、「算定にかかる費用」、「手続きの流れ」について詳しく解説していきます。
非上場企業における株価算定とは?
企業価値と株価の関係性
株価算定を理解するためには、「企業価値」と「株価」の違いを知っておくことが重要です。
- 企業価値:企業の全体的な価値(負債+株主価値)
- 株価:企業価値から負債を差し引き、発行済株式総数で割った1株あたりの価値
株価は、企業価値を算出し、負債を差し引いた「株主価値」を株式総数で割ることで求められます。
株価の算出式
株価 =(企業価値 − 負債) ÷ 発行済株式総数
株価算定が必要な場面とは?
非上場企業において株価算定が必要となる主な場面は以下のとおりです。
- M&A(企業買収・合併):適正な買収価格を決定するため
- 事業承継・相続:自社株を後継者に引き継ぐ際に適正価格を知るため
- 資金調達(VCなどの投資家向け):第三者からの投資を受ける際に株価を決定するため
- ストックオプション発行:従業員や役員へのインセンティブ制度の適正価格を決めるため
- 第三者割当増資:新たな投資家へ株式を発行する際に株価を決めるため
- 株式譲渡(売買)・贈与:株主間で株式を売買・贈与する際の適正価格を把握するため
企業の成長フェーズや経営戦略によって、適用する算定方法は異なります。
株価算定の主な方法
① インカム・アプローチ(収益価値方式)
将来の収益性に基づいて株価を算定する方法です。
- DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法):将来のキャッシュフローを現在価値に割り戻して評価
- 収益還元法:一定期間の利益額を基に評価
- 配当還元法:将来の配当額を基に評価(相続税評価で主に使用)
特徴:成長性を考慮できるが、将来の予測が必要なため専門知識を要する
② マーケット・アプローチ(市場比較方式)
市場価格を基準に株価を算定する方法です。
- 類似会社比較法(マルチプル法):類似する上場企業のPER(株価収益率)などを基に評価
- 類似取引比較法:過去のM&A事例などを基に評価
特徴:客観的な評価が可能だが、非上場企業では適用が難しい場合がある
③ ネットアセット・アプローチ(純資産方式)
現在の純資産を基に株価を算定する方法です。
- 簿価純資産法:貸借対照表の純資産を基に評価
- 時価純資産法(修正簿価純資産法):保有資産を時価評価し、より正確な算定を行う
特徴:資産価値を反映しやすいが、将来の収益性を考慮しにくい
各アプローチの比較表は以下のとおりです。
アプローチ | 収益性を考慮 | 客観性 | 主要な活用場面 |
---|---|---|---|
インカム・アプローチ | ◎ | △ | M&A・資金調達 |
マーケット・アプローチ | ○ | ◎ | VC投資・M&A |
ネットアセット・アプローチ | × | ○ | 事業承継・相続 |
株価算定にかかる費用
株価算定を専門家に依頼する場合、一般的な費用相場は以下のとおりです。
依頼内容 | 費用相場 |
---|---|
簡易評価(税理士・公認会計士) | 10万~30万円 |
詳細評価(M&A・資金調達向け) | 50万~200万円 |
法的な意見書付き評価 | 100万~300万円 |
ポイント
- 目的に応じて適切な依頼先を選ぶことが重要
- 専門家の実績や経験を確認することで、より正確な評価が可能
株価算定の流れ
一般的な株価算定の流れは以下のとおりです。
① 目的の明確化
- M&Aなのか?資金調達なのか?適切な方法を選定
② 必要書類の準備
- 企業概要資料(事業内容・沿革)
- 財務諸表(決算書・B/S・P/L)
- 株主名簿
- 類似企業リスト
- 事業計画書(将来の収益見通し)
③ 株価算定の実施
- 選定した算定方法を適用し、評価を実施
④ レポート作成・報告
- 株価算定書の作成
- 必要に応じて法務・税務の専門家と連携
注意点
適正な株価を算定するためには、財務データの正確性や将来予測の妥当性が重要です。
まとめ|株価算定は専門家に相談
非上場企業における株価算定は、企業の成長やM&A、事業承継などの重要な局面で不可欠です。
株価算定のポイント
・ 目的に応じて適切な算定方法を選ぶ
・ 専門家の力を借りることで、より正確な評価が可能
・ 費用対効果を考慮しながら、最適な方法を選択