ストックオプション(新株予約権)を発行したものの、登記を忘れていた/できていなかったというご相談が、実務であとを絶ちません。
これは単なる事務ミスでは済まず、登記懈怠(会社法違反)、M&A・IPO時の重大なデューデリ指摘事項となるおそれがあります。
本コラムでは、「新株予約権の登記漏れ」について、なぜ起きるのか/どう対処すべきか/何がリスクになるのかを、実務者の視点で解説します。
1.新株予約権の登記は“義務”である
会社法の規定により、新株予約権を発行した場合は、その内容を2週間以内に登記する義務があります。
登記される主な内容
- 新株予約権の名称
- 発行数/行使価額/行使期間
- 譲渡制限の有無/取得条項の有無
- 発行日と登記申請日
→この手続きを怠ると、「履歴事項全部証明書に出てこない=発行が公示されない」状態となり、対外的に問題が生じます。
2.よくある登記漏れの原因
原因 | 説明 |
---|---|
株主総会決議のみで止まっていた | 決議=発行だと思い込み、登記を怠るケース |
有償SOで「払込日」がずれた | 実際の払込日と登記申請の整合が取れず未処理に |
司法書士に依頼していなかった | 会社側が登記不要と誤認し、専門家不関与のまま放置 |
ベンチャー投資後の慌ただしい対応 | 資金調達に気を取られ、登記まで手が回らなかった |
3.登記漏れに気づいたら、すぐに是正できる?
はい、登記漏れに気づいた時点で速やかに登記申請を行うべきです。
その際、次の点に注意が必要です。
- 登記原因日=発行日付で登記する必要がある
- 発行日から時間が経過している場合でも、当然登記は可能
- ただし、登記懈怠リスクあり →過料が発生する可能性がある
4.登記漏れが引き起こすリスクとは?
リスク | 内容 |
---|---|
デューデリジェンスでの指摘 | M&AやVC投資時に「未登記SO」が発覚し、キャップテーブルに不整合が出る |
株主からの責任追及 | 「有利発行」だった場合、発行手続の無効主張や取締役の責任追及の対象に |
税務否認 | 税務調査で「発行事実が不明確」とされ、報酬課税・源泉徴収漏れの指摘につながる可能性あり |
登記懈怠として過料 | 法務局が過料処分(最大100万円)を行うこともある |
5.登記漏れの是正に必要な書類
- 株主総会決議書(または取締役会議事録)
- 発行引受書(割当契約書)
- 払込を証する書類(有償の場合で割当日より前に払込期日が設定されている場合)
- 登記申請書(割当日付で登記)
- 登記すべき事項の記載例
※実務的には、司法書士と連携の上、整合的な書類セットを作成するのが最善です。
登記は“義務”なので漏れに気づいたら即対応が原則
ストックオプション発行に伴う登記手続は、放置すればするほどリスクが膨らむ項目です。
「今さら登記してもいいのか?」ということはなく、発行したのであれば登記は義務ですのでどれだけ日付が経っていようが必ず登記をしなくてはなりません。
会社の信頼性・資金調達・税務リスク管理の観点からも、登記の適正処理は最重要タスクです。
発行から時間が経過していても、今からでも対応できますので、迷わず専門家にご相談ください。