はじめに
ストックオプション(新株予約権)の設計において、「目的株式の種類および数」は発行要項・登記・契約書に必ず明示すべき基本項目です。
とくに種類株式を導入している会社や、株式数の希薄化管理が重要な会社にとっては、どの株式をどの程度取得できるのかという「目的株式」の設計がインセンティブの成否を分けます。
このコラムでは、目的株式の定義、会社法上の位置づけ、種類株式や分割対応との関係をFAQ形式で解説します。
Q1:ストックオプションの「目的株式」とは?
目的株式とは、新株予約権を行使したときに発行される予定の株式のことです。
会社法238条3項では、募集事項として「新株予約権の目的たる株式の種類および数」を明示することが求められており、
たとえば以下のように記載されます
「1個の新株予約権につき、普通株式1株を取得できるものとする。」
Q2:普通株式以外を目的株式にすることはできますか?
はい、できます。
会社法上、「目的株式」を普通株式に限定する規定はありません。
したがって、優先株式・取得条項付株式・無議決権株式などの種類株式を目的とすることも可能です(ただし、普通株式のみ発行している会社は前提として種類株式発行会社とする定款変更が必要です)。
このような設計は、以下のような目的で用いられます。
- ストックオプションによる議決権の過度な希薄化を回避
- IPOやM&A時に特定の処理を行いやすくする(取得条項付など)
- 投資家株式と区別し、従業員向けの株式クラスを別管理する
Q3:目的株式の「数」はどう決めるの?
実務では、1個あたり1株を取得できる設計が一般的です。
ただし、株式分割や併合、将来の資本政策を見据えて柔軟な設計も可能です。
パターン | 記載例 |
---|---|
通常型 | 「1個につき普通株式1株」 |
分割想定型 | 「1個につき普通株式1株(ただし、株式分割があった場合は調整)」 |
株式数調整条項付 | 「会社の決定により取得株数を調整することがある」 ※VC・上場準備会社等で使用例あり |
Q4:登記ではどのように記載されるの?
登記では、会社法911条3項19号に基づき、
- 新株予約権の個数
- 目的株式の種類・数
- 行使価額等の条件
が明示されます。たとえば
「本件新株予約権は、普通株式各1株を取得する権利を内容とする100個の新株予約権とする。」
→ 目的株式が種類株式である場合には、その内容も登記に明示する必要があります。
Q5:目的株式の設計で実務上注意すべきことは?
論点 | 解説 |
---|---|
定款との整合性 | 種類株式を目的とする場合、その内容・発行枠が定款に明記されている必要あり |
希薄化の見込み | 発行済株式総数に対する予約権数の割合を設計段階で検証すべき |
分割・併合リスク | 株式分割等で目的株式数が変動した場合に備え、調整条項を必ず設けることが推奨される |
まとめ
- ストックオプションの「目的株式」は、種類・数ともに契約・登記・発行要項の中心項目
- 普通株式以外も目的株式に設定可能だが、定款と登記への影響を考慮した設計が必要
- 将来の資本政策・IPO・M&Aを見据えた柔軟で戦略的な設計が求められる
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