かつては非上場企業でも“税務リスクを抑えつつ幅広い人材に付与できる”として人気だった信託型ストックオプション(信託型SO)。しかし近年の法改正・税務当局の見解により、その設計は極めて困難になり、実質的に利用不可の状態にあります。
では、信託型SOに代わるスキームは何か?本稿では実務的な代替手段について、FAQ形式で解説します。
Q1:なぜ信託型ストックオプションが使えなくなったのですか?
2022年以降、税務当局の見解が大きく変化し、信託型SOは原則として「給与課税される」と判断される事例が続出しました。特に以下のような点が問題視されています。
- ストックオプションが実質的に退職金的性格を持つと判断されるケース
- 信託を通じて取得価額を事前固定することによる経済的利益の認定
- 形式的には対価の授受があっても、実質無償の利益供与とされる設計
この結果、「税務否認リスクが高すぎる」として、実務上は封印状態となりました。
Q2:信託型SOに代わるストックオプションの設計とは?
以下のような代替案が検討されています。
代替スキーム | 特徴 |
---|---|
有償ストックオプション | 権利者が対価を支払い取得。報酬性が否定されやすく、税務リスクが低い。 |
税制非適格ストックオプション(個別契約型) | 行使時課税だが、設計の柔軟性が高い。 |
株式報酬信託(J-ESOP) | 上場企業向けが主だが、特定の設計で一部非上場でも対応可。 |
ファントムストック(疑似株式報酬) | 実際の株式は交付せず、金銭で株価連動報酬を支給。税務的には給与。 |
Q3:非上場企業が現実的に取りうる選択肢は?
最も現実的な選択肢は以下の2つです:
- 有償ストックオプションの活用
→ 権利者が公正価値で取得することで、「報酬性」を排除
→ 経済的利益の認定リスクが低下
→ 上場準備中の企業でも多用されています - 税制非適格SOのシンプルなスキーム
→ 「無償付与+行使時課税」とすることで、シンプルかつ柔軟に設計可能
→ 一部税務リスクはあるものの、実務的には許容されやすい範囲
Q4:代替スキームを選ぶうえでの実務上の注意点は?
注意点 | 解説 |
---|---|
評価の妥当性 | オプション評価や株価評価の第三者算定書が重要 |
付与対象の限定 | インセンティブ対象者の職種・役職に応じてメリハリある設計を行う |
契約条項の精緻化 | 「譲渡制限」「退職時の失効条件」「ダブルトリガー条項」などの明確化 |
株主対応 | 種類株式を活用するなど、既存株主との希薄化バランスを調整する仕組みも重要 |
まとめ
信託型ストックオプションの“終焉”により、企業は新たなインセンティブ設計を求められています。有償SOや非適格SOなど、現実的かつ税務リスクを踏まえた選択肢を検討することが、今後のストックオプション戦略のカギとなるでしょう。
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