ストックオプション(新株予約権)は、従業員や役員へのインセンティブとして活用されることが多い制度ですが、
「既存株主(出資者)にSOを発行してよいのか?」という実務相談も少なくありません。本稿では、会社法・税務・資本政策の観点から、株主に対するSO発行の可否と注意点をFAQ形式で整理します。
Q1:既存株主に対してストックオプションを発行することは可能ですか?
原則として、可能です。
会社法は、ストックオプションの対象者を従業員・役員等に限定していません。
そのため、株主(出資者)に対しても新株予約権の発行は法的に許容されます(会社法236条・238条)。
ただし、対象が既存株主である場合には、法務・税務・資本政策の観点で慎重な設計が必要です。
Q2:株主にSOを発行する主なケースとは?
以下のような目的で、株主に対してSOを発行するケースがあります。
ケース | 説明 |
---|---|
VC・エンジェル投資家への報酬的インセンティブ | 投資実行後の支援内容に応じてSOを追加付与 |
創業メンバー間のインセンティブ調整 | 出資比率と貢献度のバランスを補正する |
今後の業績連動ボーナス設計 | 業績達成条件付きSOを設定し、追加的利益を設計 |
普通株と異なる株式種別への切替スキーム | 株主にSO(種類株)を発行し、議決権コントロールを維持 |
Q3:株主にSOを発行する場合の税務上の注意点は?
とくに重要な論点は「株主=既に出資している者」であるため、以下のような経済的利益の移転が問われやすいことです。
論点 | 税務リスク |
---|---|
権利行使価格が割安である | 株主に対してみなし配当課税が生じる可能性 |
発行価額が不相当に低い | 時価発行の原則違反とされるおそれ(法人税上の否認) |
見返りが不明確 | SOが実質的な贈与や出資の戻しと認定される可能性 |
そのため、SO評価の適正性(第三者算定書の取得)と発行理由の合理性(議事録・契約書整備)が不可欠です。
Q4:会社法上、特に注意すべき手続きはありますか?
はい。次の点が特に重要です
手続き項目 | 注意点 |
---|---|
募集事項の決定(会社法238条) | 株主に対するSOであっても、株主総会での特別決議が必要 |
特別利害関係人の除外 | 発行対象が既存株主であっても、議決権行使は可能(ただし恣意性に注意) |
議事録の整備 | 出資者との資本政策調整目的であることを明確に記載すべき |
種類株式との連携 | SOの行使対象を「無議決権株式」とすることで、株主総会構成を維持できるケースあり |
まとめ
株主へのストックオプション発行は、法的には可能であり、資本政策上の有効な手段にもなり得ます。
しかし、税務リスクや意思決定の正当性を問われやすいため、制度設計・議事録・評価証明・契約内容の精緻化が求められます。
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