近年、スタートアップ企業などで導入が進む「有償ストックオプション」。
その設計において頻出するのが、「払込があるなら報酬性はないのでは?」「無償なら報酬性があるのか?」といった誤解や混同です。
本稿では、有償SOの「払込」と「報酬性」の違いを整理し、会計・税務・登記・決議手続への影響を実務目線で解説します。
Q1:有償SOとは?払込があると報酬性は否定される?
「有償ストックオプション」とは、対象者が新株予約権の取得時に一定の払込を行うスキームです。
例:1株あたり30円の新株予約権を100個付与 → 3,000円の払込
ただし、払込=報酬性がないとは限りません。
報酬性の有無は、「付与の趣旨」「払込金額の適正性」「市場価格との乖離」などから総合的に判断されます。
Q2:報酬性があると、税務や決議上、何が違ってくるの?
報酬性の有無によって、税務・会社法・登記実務における取り扱いが大きく変わります。
観点 | 報酬性あり | 報酬性なし |
---|---|---|
税務(所得税) | 付与時に課税(給与所得または雑所得) | 課税なし(将来の株式譲渡時まで繰延) |
株主総会決議 | 報酬としてのSO付与には、役員報酬としての決議が必要 | 通常のSO発行決議でOK |
公開情報 | 有価証券報告書に報酬額として記載される | 記載不要な場合あり |
付与通知書等 | 源泉徴収・税務署報告が必要 | 不要 |
Q3:有償であっても報酬性があるケースとは?
以下のような場合、形式上は払込があっても、実質的には報酬性ありと判断されるリスクがあります
- 発行価額が著しく低い(時価より大幅に割安)
- SOの対価に見合う業務提供がない(報酬目的である)
- 上場直前で価値が急上昇している段階での付与
- 現物給与の代替として発行されている
→ このような場合、税務上は「給与課税」とされ、源泉徴収義務が発生するおそれがあります。
Q4:報酬性を否定するために必要な対応は?
報酬性を否定し、資本取引(非課税)として扱うためには、以下のような実務対応が有効です
- 第三者評価機関によるSOの公正価値算定
- 払込金額=評価額で設計する(時価発行)
- SOの付与目的を「資本参加」「インセンティブ」等と契約書に明記
- 役員等への付与には、利益相反取引の承認を取る(報酬決議ではなく)
Q5:登記や契約書にはどのように記載すべきですか?
登記簿には、払込の有無および払込金額、行使価格、行使条件などの基本情報を記載します。
ただし、報酬性の有無自体は登記には現れません。
一方で契約書(新株予約権割当契約書)では、付与目的・払込金額・権利失効条件などを明示することで、税務上の立証資料になります。
まとめ
- 有償SOは「払込あり=報酬性なし」とは限らない
- 報酬性の有無は、目的・対価・価格の妥当性から総合的に判断
- 税務・決議・登記への影響を念頭に、制度設計と文書整備を慎重に行う必要がある
有償ストックオプション導入をご検討中の企業様へ
当法人では、評価機関・税理士・司法書士と連携し、報酬性の有無を含めたSOスキーム全体の検討・設計支援を行っています。制度導入をご検討の際はお気軽にご相談ください。