ストックオプション(SO)制度の設計にあたって、「無償型」と「有償型」どちらを採用すべきかは、実務上の大きな検討ポイントです。近年では、有償SOの活用が増えつつありますが、それぞれに税務・法務・費用面の特徴があり、目的に応じた使い分けが必要です。
Q1:無償ストックオプションと有償ストックオプションの基本的な違いは?
区分 | 無償ストックオプション | 有償ストックオプション |
---|---|---|
取得対価 | なし(無償で付与) | あり(一定額を払い込む) |
税務上の位置付け | 原則「給与所得」として課税対象 | 原則「資本取引」として課税対象外になりやすい |
株主総会決議の位置付け | 権利の経済的利益を丁寧に説明する必要あり | 払込がある分、報酬性が否定されやすい |
採用目的 | インセンティブ性を重視 | 希薄化対策・税務否認回避など制度設計の安定性を重視 |
Q2:なぜ有償SOが注目されているのですか?
従来は、税制適格ストックオプション(=無償)を前提とした設計が主流でしたが、近年では以下のような背景から有償SOの活用が広がっています。
- 税務当局による給与課税リスクの高まり(形式的に無償でも実質報酬性が疑われる)
- 信託型SOの実質利用停止に伴う代替手段としての位置付け
- 上場準備中企業による行使時の株価調整リスクの回避
特に、有償SOは「払込がある=財産取得の対価」であるため、税務上の給与認定がされにくいという点が評価されています。
Q3:有償SOの「払い込み価格」はどう決めるのですか?
有償SOでは、取得対価を公正に設定する必要があります。そのため、新株予約権の評価額を、Black-ScholesモデルやMonte Carlo法などの金融工学的手法で算定するのが一般的です。
評価要素 | 内容 |
---|---|
現時点の株価 | 上場企業なら市場価格、非上場企業なら第三者評価 |
行使価格 | あらかじめ設定された取得価格 |
権利行使期間 | 通常5〜10年程度 |
株価のボラティリティ | 同業他社などから推定 |
無リスク利子率 | 国債等の金利を参照 |
※ 評価額を不当に低く設定すると、税務上の「みなし給与課税」のリスクがあります。
Q4:どちらを選ぶべき?判断のポイントは?
企業のステージや目的に応じた使い分けが必要です:
観点 | 無償SOが適する場合 | 有償SOが適する場合 |
---|---|---|
ステージ | シード・アーリーステージ | ミドル~レイターステージ、上場準備期 |
キャッシュがない | ◎(対価不要) | △(権利者に払込資金が必要) |
税務の透明性 | △(みなし課税リスクあり) | ◎(対価があるため報酬性否定されやすい) |
希薄化対策 | △(既存株主との調整が必要) | ◎(公正価値ベースの取得) |
Q5:法務上の手続きに違いはありますか?
基本的な発行手続き(会社法第236条〜)は共通ですが、有償SOでは下記の点に注意が必要です。
- 株主総会決議に際し、払込価格の合理性を裏付ける資料(評価書等)を準備
- 払込の事実を立証できる証拠(通帳コピーなど)を保管
- 対象者との新株予約権割当契約書に払込・失効条項を明記
まとめ
無償ストックオプションと有償ストックオプションは、いずれも従業員等へのインセンティブ設計として有効ですが、税務・法務・経済合理性の観点から適切に使い分けることが肝要です。特に近年では、税務否認リスクの低い「有償SO」への注目が高まっており、主流です。
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