ストックオプションには、「税制適格」と「税制非適格」の2種類があり、税制適格SOを正しく設計すれば、行使時課税を繰り延べ、売却時まで課税を猶予できます。
これは企業と従業員の双方にとって大きなメリットですが、適格要件を1つでも欠くと非適格扱いとなり、課税タイミングが前倒しされるリスクがあります。本稿では、実務上とくに見落としやすいポイントに焦点を当て、税制適格SOの要件をFAQ形式で整理します。
Q1:そもそも「税制適格ストックオプション」とは何ですか?
税制適格ストックオプションとは、所得税法第29条の2で定められた要件を満たす新株予約権のことです。
これらの要件を満たせば、SOの付与時・行使時に課税されず、売却時に譲渡所得として課税されるため、従業員にとって有利な税制優遇が受けられます。
Q2:主な適格要件は何ですか?
2023年(令和5年)税制改正後の最新要件は以下の通りです。
区分 | 要件 |
---|---|
対象者 | 会社に雇用されている取締役または従業員(社外役員・顧問などは不可) |
行使価格 | 付与時点の公正株価以上であること |
行使期間 | 付与から2年以上10年以内の期間内に行使すること |
年間上限額 | 3,600万円(行使価格ベース)までが課税繰延対象 |
保管委託 | SOの内容を証券会社等に保管委託すること(電子データ含む、例外規定有り) |
Q3:企業が見落としやすいポイントは?
実務でのよくある落とし穴は以下のとおりです。
❶ 行使価格の決定が不適切
→ 「割安」と判断されると付与時課税となる可能性があります。第三者評価による株価算定書の取得が推奨されます。
❷ 対象者に「社外取締役」や「顧問」が含まれている
→ 適格SOの対象からは除外されており、その者に付与すると制度全体が非適格化するリスクあり。
❸ 保管委託要件を満たしていない
→ 単に契約書を社内で保管しているだけではNG。証券会社等への電子的保管が必要です(例外規定あり)。
Q4:税制適格SOと非適格SOでは課税タイミングがどう違う?
タイミング | 税制適格SO | 税制非適格SO |
---|---|---|
付与時 | 課税なし | 通常なし(有償であればあり) |
行使時 | 課税なし | 給与課税(雑所得)あり |
売却時 | 譲渡所得として課税(20.315%) | 売却益に加え、行使時課税済分あり |
税制非適格SOでは、行使時に課税されるため、株式を売却していないのに税金が発生する点が、最大のデメリットです。
Q5:令和5年度改正で何が変わったのですか?
特に大きいのは非課税枠の拡大です。
年度 | 上限額(行使価格ベース) |
---|---|
~令和4年度 | 1,200万円 |
令和5年度以降 | 3,600万円(3倍に拡大) |
これにより、より高額なインセンティブ設計が可能となり、上場準備中のスタートアップを中心に活用が広がっています。
まとめ
税制適格SOは、課税繰延・低税率・高インセンティブ効果を兼ね備えた優れた制度ですが、要件を一つでも欠くと非適格扱いとなり、従業員に大きな税負担が発生します。
制度設計時には、法務・税務・会計の専門家と連携して、要件を一つひとつ確実にチェックすることが重要です。
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