近年、企業の成長において「イノベーション」の重要性がますます高まっています。DX(デジタルトランスフォーメーション)をはじめとする技術革新の進展により、従来の業務プロセスやビジネスモデルが急速に変化する中、企業が競争力を維持・強化するためには、新しいアイデアを生み出し、実行に移せる環境を整えることが不可欠です。
その中で注目されているのが、イノベーションを促進するための報酬制度の見直し です。従来の給与体系では、変化の激しい時代に適応できない側面があり、企業にとって優秀な人材の確保やモチベーション向上のために、新たなインセンティブ設計が求められています。
本コラムでは、新しい報酬制度が求められる背景やその概要について詳しく解説していきます。
新しい報酬制度が求められる背景とは?
① ストックオプションの導入が進む海外市場
イノベーションを推進する企業では、従業員のモチベーションを高めるために「ストックオプション」などの報酬制度が活用されています。
例えば、中国のA株市場では、上場企業の約4割(3,533社中1,406社) がストックオプションを導入しており、特にIT・テクノロジー系企業では6〜7割の企業が採用しています。一方、日本ではストックオプションを導入している企業は約3割程度にとどまっており、海外と比べるとまだ遅れを取っているのが現状です。
この差は、企業文化の違いだけでなく、報酬制度に対する考え方の違い によるものです。海外では、従業員が「企業の成長とともに報酬を得られる」仕組みが一般的ですが、日本では「固定給+ボーナス」という従来型の給与体系が根強く残っています。
② DX人材の採用環境の変化
企業のDX推進に不可欠なIT人材の市場環境も変化しています。
近年、IT・通信業界の求人倍率は 5.86倍→6.0倍未満 に減少しており、スタートアップ企業の資金調達の厳しさも相まって、大企業が優秀なDX人材を採用しやすい状況になっています。
特に、「プロデューサー」や「ビジネスデザイナー」など、DXの推進に必要なスキルを持つ人材は 6〜7割が不足 しており、優秀なDX人材を確保するための魅力的な報酬制度が求められています。
③ DX推進の成功には「報酬制度」が重要
DXの成功には、企業の内外の人材をどのように動機付けるか が大きなポイントとなります。
内部人材の課題
- DX部門に異動すると給与が上がるが、元の部署に戻ると下がるリスクがある
- 同じ仕事をしているのに、中途採用のDX人材の方が高待遇で不公平感が生まれる
外部人材・協力者の課題
- 外部からの優秀な人材を採用するには、給与面での魅力が必要
- 社外の専門家やパートナー企業にも、成果に応じた報酬を用意する必要がある
このような課題を解決するために、新しい報酬制度の設計が不可欠です。
DX人材の確保に有効な報酬制度とは?
① 信託型ストックオプション+ポイント制度の活用
新しい報酬制度として注目されているのが、「信託型ストックオプション」+「ポイント制度」 の組み合わせです。
信託型ストックオプションとは?
通常のストックオプションと異なり、発行時に対象者を決める必要がなく、付与タイミングを柔軟に設定できる 仕組みです。これにより、企業はキャッシュアウトを防ぎつつ、経済的価値のあるインセンティブを提供できます。
また、企業の成長に応じて報酬が決定されるため、従業員のモチベーション向上につながる のも特徴です。
ポイント制度とは?
従業員や外部協力者に対し、業績や貢献度に応じた「ポイント」を付与する制度です。
- 貢献度に応じてポイントを獲得
- 一定のポイントが貯まると、ストックオプションや報酬に交換可能
この制度を活用すれば、個人の成果を公平に評価し、外部協力者にも柔軟にインセンティブを提供 できます。
新しい報酬制度のメリットとは?
① 企業側のメリット
適切な報酬配分が可能
→ 事前に決めた評価基準に応じてインセンティブを設定できる
中長期的なインセンティブ効果
→ 会社の成長と連動するため、従業員の貢献意欲が高まる
現金報酬のリスク回避
→ 年功序列型の固定報酬とは異なり、パフォーマンスに応じた報酬が可能
② 従業員側のメリット
ストックオプションで資産形成のチャンス
→ 企業成長に応じて、報酬の価値が上がる可能性がある
DX部門への異動に納得感が生まれる
→ 給与格差が問題にならず、円滑に異動が可能
外部協力者にも公平な報酬提供が可能
→ ポイント制度を活用すれば、外部の貢献者にも適切な報酬を設定できる
まとめ
これからの時代、企業が競争力を維持・強化するためには、イノベーションを生み出す環境整備が不可欠 です。そのためには、従業員のモチベーションを高め、外部の協力者とも連携しやすい報酬制度の導入が求められています。
これからの報酬制度の見直しを検討する企業にとって、「成果に応じた公平な報酬設計」 が鍵となるでしょう。