ストックオプション(SO)は、スタートアップにとって定番の制度である一方、
「なんとなく導入している」「他社もやっているから設けている」
という状態で走り出してしまう企業も少なくありません。
本コラムでは、導入を検討する企業担当者が実際によく口にする疑問をQ&A形式で整理し、
制度設計の前提として押さえるべき考え方を解説します。
Q1.ストックオプションは「全社員」に付与すべき制度ですか?
A.必ずしもそうではありません。
SOは福利厚生ではなく、企業価値向上への関与度合いに応じて付与する制度です。
そのため、全社員一律付与が適しているとは限りません。
・中長期で事業にコミットする人材か
・意思決定や成果が企業価値に直結する立場か
・リスク共有の意味を理解できるか
これらを基準に整理しないまま対象を広げると、
制度の価値が希薄化しやすくなります。
Q2.ストックオプションは「現金報酬の代わり」になりますか?
A.代替ではなく、補完と考えるべきです。
SOは、将来の成功を前提とした報酬であり、
毎月の生活を支える現金報酬とは性質が異なります。
現金報酬を過度に抑え、
「SOがあるから問題ない」としてしまうと、
従業員側の生活不安や制度不信につながることがあります。
SOは、現金報酬では表現できない成長のリターンを補完する制度として位置付ける必要があります。
Q3.ベスティング期間は長いほど良いのでしょうか?
A.年数の長さよりも、設計意図が重要です。
ベスティングは、単なる離職防止策ではありません。
「どのフェーズに、どの役割を果たしてほしいのか」
という経営側の意思表示です。
年数だけを他社と横並びで決めてしまうと、
従業員には単なる制約条件としてしか伝わりません。
事業計画・資金調達・上場時期との関係を踏まえ、
なぜその期間なのかを説明できる設計が不可欠です。
Q4.税制適格ストックオプションを選べば安心ですか?
A.税制面だけで判断すると、設計を誤る可能性があります。
税制適格SOは税務上のメリットが注目されがちですが、
行使期間や管理方法など、制度上の制約も存在します。
事業が長期化する可能性が高い場合や、
研究開発フェーズが続くビジネスモデルでは、
適格SOが必ずしも最適とは限りません。
「税制上有利か」ではなく「事業に合っているか」という視点で検討することが重要です。
Q5.ストックオプションは付与した後、何もしなくてよいですか?
A.むしろ付与後の対応こそ重要です。
SOは、付与した瞬間に完成する制度ではありません。
・現在どこまでベスティングが進んでいるのか
・行使条件はどうなっているのか
・将来、どのような選択肢があり得るのか
これらが共有されていないと、
従業員にとってSOは「よく分からない制度」になってしまいます。
SOは、継続的な説明と情報共有によって初めて機能する制度です。
まとめ、ストックオプションは制度設計と運用の整合性が重要である
ストックオプションは、制度としてはシンプルに見えますが、
その運用には、経営姿勢が色濃く反映されます。
・誰とリスクを共有したいのか
・どこまで未来を共にするのか
・何を約束し、何は約束しないのか
これらを曖昧にしたまま導入すると、
SOはインセンティブではなく、誤解の種になります。
制度を設ける前に、
まず経営側が考えを整理することが、
ストックオプションを成功させる第一歩といえるでしょう。
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