ストックオプション(新株予約権)を設計する際、「本源的価値」という概念は避けて通れません。
とりわけ、会計処理や付与時の権利行使価格の設定、未上場企業における費用計上の有無を検討する場面では、制度理解が不十分なまま進めると想定外の影響が生じることがあります。
本稿では、本源的価値の定義、計算方法、時間的価値との関係、日本の会計基準上の取扱い、未上場企業の特例までを実務視点で整理します。
1.ストックオプションの本源的価値とは何か?
ストックオプションの本源的価値(Intrinsic Value)とは、
「現時点で権利を行使した場合に得られる経済的利益」
を意味します。
計算構造は極めて単純です。
本源的価値 = 現在株価 - 権利行使価格
ただし、計算結果がマイナスになる場合はゼロとして扱います。
(マイナスの価値は認識しません)
この概念は、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表している
企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」およびその適用指針に基づく実務処理の前提概念となっています。
2.株価水準による3つの状態分類
本源的価値の有無は、株価と権利行使価格の関係で決まります。
| 状態 | 株価と行使価格の関係 | 本源的価値 | 意味 |
|---|---|---|---|
| イン・ザ・マネー | 株価 > 行使価格 | プラス | 即時行使で利益が出る |
| アット・ザ・マネー | 株価 = 行使価格 | 0 | 利益なし |
| アウト・オブ・ザ・マネー | 株価 < 行使価格 | 0 | 行使しても損失 |
実務上、付与時にイン・ザ・マネーの設計とするケースは限定的であり、税制適格要件との関係でも慎重な検討が必要です。
3.本源的価値と時間的価値の違いは?
ストックオプションの公正価値は、一般に次のように整理されます。
公正価値 = 本源的価値 + 時間的価値
時間的価値とは何か?
時間的価値とは、
将来、株価が変動する可能性に基づく期待値
です。
たとえば、現時点でアウト・オブ・ザ・マネーであっても、満期までに株価が上昇する可能性がある限り、オプションには価値が残ります。これが時間的価値です。
なぜ時間的価値は減少するのか?
満期に近づくほど、
- 株価が大きく動く可能性が減る
- 利益獲得の機会が限定される
ため、時間的価値は徐々に減少し、満期時にはゼロになります。
この現象はオプション理論上の一般原則です。
時間的価値を含めた評価には、ブラック・ショールズ・モデルや二項モデルが用いられます。
4.上場企業と未上場企業で会計処理はどう異なるか?
日本の会計基準では、公開企業と未公開企業で評価方法が異なります。
(1)上場企業の場合
- 本源的価値+時間的価値を含めた公正価値で評価
- ボラティリティ(株価変動率)を合理的に見積もる
- 数理モデルを用いて算定
したがって、付与時点で本源的価値がゼロであっても、時間的価値が存在すれば費用計上が発生します。
(2)未上場企業の場合(特例)
未上場企業では、市場株価や十分なボラティリティデータが存在しないため、合理的な時間的価値算定が困難です。
そのため、適用指針上、
本源的価値のみで評価する方法が認められています。
これは実務上非常に重要なポイントです。
5.未上場企業で費用計上がゼロとなる仕組み
未上場企業が本源的価値法を採用する場合、次の構造になります。
通常の設計
- 権利行使価格 = 付与日の株価(またはそれ以上)
すると、
付与日の株価 - 行使価格 = 0
となり、本源的価値はゼロです。
未上場企業の特例では、
本源的価値 = 費用計上単価
となるため、付与時の費用はゼロになります。
これは、上場準備企業にとって損益計算書への影響を抑えながらインセンティブ制度を設計できるという実務上の意味を持ちます。
6.本源的価値を確認する実務手順
実務上は、次の3ステップで確認できます。
① 権利行使価格の確認
割当契約書・発行要項を確認
② 現在株価の確認
- 上場企業:市場株価
- 未上場企業:直近の増資単価、評価書等
③ 差額計算
株価 - 行使価格
マイナスの場合はゼロ
7.よくある実務上の疑問
Q1.本源的価値が高いほど良い制度ですか?
受給者にとっては有利ですが、付与時からイン・ザ・マネー設計とすると、税制適格要件を満たさない可能性が高まります。
報酬設計と税務の両面から検討が必要です。
Q2.上場後はどう変わりますか?
上場後は株価が市場で日々変動するため、本源的価値もリアルタイムで変動します。
8.まとめ、本源的価値は「設計判断」の出発点
本源的価値は、
株価と行使価格の差額
という単純な概念ですが、
- 会計費用の発生有無
- 未上場企業の特例適用
- 税制適格設計
- IPO前後のインセンティブ設計
といった資本政策上の重要論点と密接に関連します。
特に未上場企業では、本源的価値法の理解が制度設計の前提条件になります。
ストックオプションは単なる報酬制度ではなく、会計・税務・資本政策が交錯する領域です。
制度設計段階で、本源的価値の位置づけを正確に整理することが実務上不可欠といえます。
参考情報
- 企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」
- 同適用指針(企業会計基準委員会)
- 経済産業省:税制適格ストックオプション関連資料
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