新株予約権(ストックオプション)を設計する際、「行使価額」をいくらに設定するかは、
税務・評価・株主対応に直結する重要事項です。
「安く設定すればインセンティブになる」「高くすれば将来の期待が強調できる」
こうした発想だけで設定してしまうと、税務否認・株主間トラブル・行使不能リスクなどに発展する可能性があります。
本コラムでは、行使価額の法的性質・決定プロセス・税務と株主対応を踏まえた設計のポイントを解説します。
1.行使価額とは?法律上の位置づけ
行使価額とは、新株予約権を行使して株式を取得する際に払い込むべき金額です。
「新株予約権の内容」に含まれる必須項目であり、発行時に定めて登記にも記載されます。
たとえば
「この新株予約権を行使して普通株式1株を取得するには、1株につき1,000円を払い込むものとする。」
2.「いくらにするか」は誰が決める?
原則として、株主総会(公開会社の場合は、取締役会)が行使価額を含む新株予約権の内容を決議します。
なお、著しく低額な場合=有利発行と見なされ、公開会社であっても株主総会特別決議が必要になります。
3.「安すぎる」行使価額の落とし穴とは?
リスク領域 | 問題点 |
---|---|
税務 | 行使時に「時価−行使価額」の差額が給与課税される。源泉徴収義務が発生 |
会計 | ストックオプション費用として大きな費用計上が必要に(IFRS等では特に顕著) |
株主間 | 安価で株式が増えることで、既存株主の持株比率が大きく希薄化(ダイリューション問題) |
信頼性 | VC・外部投資家からの「ガバナンスが甘い」との評価につながる可能性も |
4.実務で用いられる行使価額の設定方法
以下はいずれも合法ですが、目的とリスクのバランスを考慮して選定されます。
方法 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
類似企業比較法・DCF法等による第三者評価 | 客観的な価格算定を外部専門家に依頼 | 有償SO・税制適格SOで特に推奨 |
直近の資金調達時価格を参照 | SAFEやJ-KISS、第三者割当増資の価格を参考 | 外部VCが関与している場合に説得力あり |
直近期末純資産ベース | 簿価純資産÷発行済株式数で算出 | シード・設立間もない会社向けだが、安価になりがち |
1円など任意の安価設定 | インセンティブ重視で実施されるがリスク高 | 契約・登記・税務処理の精緻な設計が必要 |
5.行使価額の設定におけるベストプラクティス
- 第三者評価書を取得する(価格の合理性とガバナンスを担保)
- 評価基準日を発行日前に設定し、経済的公平性を確保
- 株主総会での開示・説明を適切に行い、既存株主との信頼関係を維持
- 成果報酬設計と組み合わせるなら、成果条件・取得条項を併用する
まとめ:行使価額は「税・株主・経営」の三者バランスをとる設計項目
新株予約権の行使価額は、単なる数字ではありません。
税務インパクト・株式構成・人材インセンティブすべてに直結する、戦略的な設計項目です。
安くすればよい、高くすれば安全、という単純な話ではなく、会社のステージ・関係者との信頼・出口戦略を見据えた設計判断が必要です。
当法人では、新株予約権の行使価額や発行条件の妥当性評価、登記・契約書の整備、株主総会決議のサポートまで、トータルで支援しています。
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