ストックオプション(新株予約権)を導入する際に必ず決めなければならないのが「行使期間」です。
いつからいつまで行使できるかという期間設定は、会社法上の必須記載事項であり、
登記簿にも明記される法定要素です。
しかし、実務では「とりあえず10年でいいのでは?」「退職後も行使OKでよいのでは?」といった安易な判断が
思わぬトラブルを招くこともあります。
本コラムでは、行使期間の法的位置づけと、設計時に注意すべき実務ポイントをわかりやすく解説します。
1.行使期間は「新株予約権の内容」として法定されている
会社法により、新株予約権の発行には以下の内容が必ず記載されなければならないとされています。
「当該新株予約権を行使することができる期間」
これは登記事項でもあり、履歴事項全部証明書にも記載される必須の設計項目です。
2.実務でよくある行使期間の設定パターン
パターン | 設定例 | 特徴 |
---|---|---|
シンプル固定型 | 発行日から10年間 | 非上場企業で多く採用。汎用性が高い |
成果・在籍要件型 | 在職中であり、かつ発行から3年後〜7年後まで | リテンション設計に活用される |
終身型 | 行使期間を発行から20年等 | 稀だが税務リスクや想定外の希薄化につながることも |
IPOタイミング型 | IPO日から〇年間 | 上場時点で一斉に行使可能となる設計。株主調整が必要なケースも多い |
3.退職・死亡等の際の行使期間の扱い
行使期間そのものは登記事項であり、例えば「発行から10年間」とされていれば、退職後でも期間内は行使可能です。
しかし、それを制限したい場合は、別途「契約上の行使制限」や「失効条項」で対応する必要があります。
例(よくある条項)
「新株予約権者が退職した場合、退職日から起算して1年以内に限り行使できる」
→これはあくまで契約上の制限であり、登記簿上の行使期間とは別管理です。
4.実務上の注意点と落とし穴
注意点 | 内容 |
---|---|
行使期間と失効条件の関係を整理 | 退職時の扱いなどは別途明記しなければ、行使され続けてしまう可能性あり |
登記内容と契約条項の不一致に注意 | 登記では10年と記載しているのに、契約では3年などの矛盾に注意 |
IPOやM&A時の一括行使との関係 | 特定イベントをトリガーとする場合は、登記とは別に「特約条項」として明記を |
5.行使期間の設定が不適切だとどうなるか?
- 退職後に行使され続け、想定外の株式発行が発生
- IPO時にベスティング解除・一括行使が集中し、株主構成が乱れる
- 評価・税務上の処理と実態が合わなくなり、監査法人や税務署との調整に追われる
- 登記簿と契約が食い違い、法務局から補正指示/M&Aデューデリで指摘される
行使期間は“設計の起点”。適切に設計・登記・契約で一貫管理を
ストックオプションの行使期間は、「とりあえず10年でOK」という設計ではなく、
報酬設計・株主調整・IPOやM&Aの出口設計・税務対応のすべてに関わる核心項目です。
特に非上場企業では、「退職後の扱い」や「業務委託終了時」「IPO時の一括行使可否」など、
契約レベルで制御すべき部分との連携が重要です。
登記・契約・実行管理を分けて考えず、ワンパッケージで設計する視点が求められます。
ストックオプションの行使期間は、単なる形式ではなく、登記にも契約にも影響する法定必須項目です。
設定次第で、退職後の権利行使トラブルやIPO・M&A時の想定外の株式発行につながるおそれもあります。
当法人では、ストックオプションの制度設計から登記・契約・行使管理まで一貫して支援しています。
「行使期間をどう設定すべきか分からない」「登記内容と契約が合っているか不安」など、どんな段階でも構いません。
まずはお気軽にご相談ください。