ストックオプション(新株予約権)を設計する際に必ず登場するのが、「行使条件」と「失効条件」です。
しかし、実務上はこの2つを混同したり、契約書に明確な区別がなされていなかったりするケースも珍しくありません。
本コラムでは、行使条件と失効条件の違いを法的・実務的に整理し、明確な設計・文言化のポイントを解説します。
1.行使条件とは?
行使条件とは、新株予約権を行使できるかどうかを制限する条件です。
例
- 在職中に限り行使できる
- 入社から1年間は行使不可(ベスティング)
- 売上〇億円達成後に行使可能
つまり、行使可能となる“前提条件”であり、これを満たさなければ、行使できない=株式を取得できない状態となります。
2.失効条件とは?
失効条件とは、新株予約権自体が効力を失う条件=権利が消滅するトリガーです。
例
- 退職後〇ヶ月以内に行使しなければ失効
- 禁止行為(競業など)を行った場合に即失効
- 契約終了時に未行使分は自動失効
行使する・しないに関わらず、権利そのものが消えるため、将来的な株式取得の可能性が失われます。
3.実務設計での使い分けのポイント
項目 | 行使条件 | 失効条件 |
---|---|---|
効力の対象 | 「行使するか否か」 | 「権利の存続」 |
制限の性質 | 前提を満たすまで使えない | 条件発生で即消滅 |
設定意図 | インセンティブ付与のコントロール | リスク管理・企業防衛 |
登記事項か | 登記される(契約内容にも明記する) | 行使条件として登記される(契約内容にも明記する) |
4.設計・契約書記載の際の注意点
- 条件を明確かつ客観的に記載する(曖昧な文言は無効リスク)
- 行使可能期間と失効事由の重なりを整合させる(たとえば在職中にしか行使できないなら、退職後即失効にするなど)
- 条文構成では、「行使の条件」「失効の事由」「その他取得条項」に分けて記載するのが望ましい
5.よくある実務ミスと対応策
ケース | 問題点 | 対策 |
---|---|---|
行使条件があいまい | 「会社が認めたとき」など抽象的 | 客観的条件に限定し、恣意性を排除 |
失効条件が契約書に記載されていない | 権利が残り続けるリスク | 契約に失効条項を明記し、適切な期限を設ける |
行使条件と失効条件の矛盾 | 行使可能なのに失効する、など | 条項間の論理整合性を確認すること |
行使条件と失効条件は“似て非なるもの”―実務では明確に分けて設計を
ストックオプション設計において、行使条件=報酬設計/失効条件=リスクコントロールという整理が有効です。
両者を明確に設計し、契約書や説明文書にも明文化することで、紛争予防・社内統制・IPO準備にもつながります。