ストックオプションを導入したいが、費用計上がどうなるのか不安だという声は、スタートアップ企業やベンチャー企業の経営層からよく聞かれます。
とくにP/L(損益計算書)への影響や、投資家への開示姿勢は、資本政策と表裏一体の論点でもあります。
本コラムでは、ストックオプションの会計処理の基本構造を、無償・有償の違い、上場・未上場の違いも含めて、実務者の視点からわかりやすく整理します。
ストックオプションの費用計上はなぜ必要なのか?
ストックオプション(SO)は、従業員や役員に対して将来の株式取得権を付与する制度ですが、労務提供の対価とみなされるため、会計上は「株式報酬費用」として費用計上が必要です。
会計処理における2つの主要ポイントは、以下のとおりです。
- 費用の金額(公正価値ベース/差額ベース)
- 費用のタイミング(一括 or 期間按分)
この2点が、SOの「無償 or 有償」「上場 or 未上場」「条件付き or 無条件」といった要素によって変化します。
無償SOにおける費用計上の考え方
● 発行価額に係る費用
無償SOでは、対価がゼロであるため、公正価値全額が費用計上の対象となります。
たとえば付与時点での株価が1,000円、行使価格が同額の場合、オプションの公正価値(例えば600円)がすべて「株式報酬費用」として会計処理されます。
● 行使価額(本源的価値)に係る費用
もし行使価格が株価より低く設定されている場合(例:株価1,000円、行使価額800円)、差額の200円も本源的価値として費用計上対象となります。
● タイミング(3パターン)
ケース | 会計処理のタイミング |
---|---|
行使制限付き(2年ロックなど) | 制限解除日まで按分計上(期間分散) |
行使制限なし or 強制行使条項あり | 発行時点で一括費用計上 |
業績条件あり | 権利確定日まで按分計上(目標達成が条件) |
有償SOにおける費用計上の考え方
● 発行価額に係る費用
有償SOは対価の払い込みがあるため、「公正価値 - 払込価額」の差額が費用対象です。
ただし、権利確定条件(業績連動など)を付けた場合に限り費用計上が生じ、無条件のときは費用計上不要となる点に注意が必要です。
● 行使価額(本源的価値)に係る費用
行使価格が株価を下回る場合は、差額分が労務の対価とみなされ、費用として認識されます。
この点は無償SOと同じ考え方です。
● タイミング(4パターン)
ケース | 発行価額の処理 | 行使価額の処理 |
---|---|---|
プレーン(制限あり) | 処理不要 | 制限解除日まで按分計上 |
プレーン(制限なし) | 処理不要 | 発行時点で一括費用計上 |
強制行使条項あり・条件なし | 発行時点で一括計上 | 発行時点で一括費用計上 |
業績条件あり | 権利確定日まで按分計上 | 権利確定日まで按分計上 |
未上場企業における会計処理の取扱い
● 発行価額に係る費用計上は原則不要
未上場会社の場合は、会計基準において「公正価値を合理的に測定できない」とされるため、発行価額に関する費用計上は免除されるのが通例です。
● 行使価額に係る費用は要計上
ただし、行使価格が株価より低い場合は、上場・未上場を問わず本源的価値の差額を費用計上する必要があります。
とくに近年のセーフハーバールール(純資産額基準等)による株価評価では、実際の株価との乖離が生じやすく、会計費用が発生しやすくなっている点に注意が必要です。
法人税上の損金算入の取扱い
法人税法では、課税所得が発生する場合に限り、対応する費用を損金算入可とされています。
したがって、以下のように整理されます。
ストックオプションの種別 | 所得税課税 | 損金算入可否(法人税) |
---|---|---|
税制適格SO(無償) | × | ×(損金不算入) |
税制適格SO(有償) | × | ×(損金不算入) |
税制非適格SO | ○(給与課税) | ○(損金算入可) |
仕訳と実務の進め方
ストックオプションの会計処理は、以下3つのタイミングで仕訳が発生します。
取引 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
付与(費用計上時) | 株式報酬費用 | 新株予約権 |
権利行使時 | 預金、その他 | 資本金、新株予約権 |
権利失効時 | 新株予約権 | 新株予約権戻入益 |
※評価・計算には、証券会社や専門業者による公正価値評価レポートを用いるのが一般的です。
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