ストックオプション(新株予約権)を検討する場面では、「何個付与するか」と並んで「どこまで希薄化を許容するか」が必ず論点になります。
もっとも、希薄化は単に株数が増えるという話ではありません。既存株主の持株比率、将来の資金調達、IPO時の説明可能性まで含めて見る必要があります。
本稿では、ストックオプションによる希薄化を、制度の仕組みと資本政策の観点から整理します。
希薄化とは何か
ストックオプションは、会社法上の新株予約権です。新株予約権とは、行使することにより株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいいます。したがって、将来その権利が行使されると、株式数が増える方向に作用し得ます。
ここでいう「希薄化」とは、一般に、株式数の増加によって既存株主の持株比率や1株当たりの価値指標が相対的に低下することを指します。経済産業省も、ストックオプションを多く付与しすぎた場合には、行使後の希薄化が懸念され、上場時や上場後の株価に影響を与えるケースがあると整理しています。
希薄化は「付与時」ではなく「潜在株式」として先に意識される
実際に株式が交付されるのは権利行使時ですが、実務では付与時点から潜在株式として管理します。
理由は単純で、投資家や既存株主は「将来どれだけ株式数が増え得るか」を見ているからです。権利行使がまだ先でも、資本政策表ではすでに希薄化要因として扱われます。
このため、ストックオプションは「今すぐ株式が増えないから問題ない」とは整理できません。むしろ、将来の行使を前提にした持分設計が重要です。
既存株主にどのような影響があるのか
影響は大きく2つに分けて整理できます。
1.持株比率の低下
たとえば、発行済株式総数が10,000株の会社で、A株主が1,000株を保有しているとします。
この時点の持株比率は10%です。
その後、ストックオプションの行使により1,000株分の新株が交付され、総株式数が11,000株になれば、A株主の保有株数は変わらなくても持株比率は約9.09%に下がります。
この変化は、経営支配や議決権比率を重視する株主にとっては小さくありません。希薄化は、単なる会計上の話ではなく、支配比率の再配分でもあります。
2.1株当たり価値の相対的低下
会社全体の価値が同じで株式数だけが増えれば、1株当たりに割り当てられる価値は薄まります。
この意味で、希薄化は既存株主の経済的利益に直接関係します。
もちろん、ストックオプションの導入によって優秀な人材を確保し、企業価値そのものが伸びれば、希薄化を上回るリターンを実現できる場合もあります。問題は、希薄化があること自体ではなく、希薄化に見合う成長ストーリーを説明できるかです。経済産業省も、ストックオプションは人材獲得やインセンティブ付与の観点で有効である一方、設計は複雑で専門家と検討することが重要としています。
希薄化率はどう見るべきか
実務では、まず現在の発行済株式総数を把握し、そのうえでストックオプションが将来何株分に相当するかを確認します。
その後、次のような考え方で希薄化率を試算します。
希薄化率 = 新たに増加し得る株式数 ÷(現在の発行済株式総数 + 新たに増加し得る株式数)
たとえば、現在の発行済株式総数が10,000株、ストックオプション行使により増える可能性のある株式数が1,000株なら、希薄化率は
1,000 ÷ 11,000 = 約9.09%
となります。
この計算自体は単純ですが、実務ではこれに加えて、今後の資金調達、新株発行、他の新株予約権、転換証券なども合わせて見なければなりません。
つまり、ストックオプション単体ではなく、キャップテーブル全体で管理する必要があります。
「何%までなら安全か」は一律ではない
ストックオプションの発行枠について、実務上は一定の目安が語られることがあります。ただし、それは法令上の絶対基準ではありません。
経済産業省の2024年ガイダンスでも、上場時に発行済株式総数の10%以内に収めることが通例と言われてきた一方、日本では10%の発行枠とするスタートアップが最も多いものの、シードステージで15%程度とする例もあり、各社の人材獲得戦略などを踏まえて検討すべきと整理されています。
このため、「10%なら常に適正」「15%を超えたら直ちに不適切」といった機械的な理解は避けた方が安全です。重要なのは、
- なぜその枠が必要なのか
- 今後の採用計画と整合しているか
- 次回以降の資金調達後でも説明可能か
を示せることです。
希薄化を管理するうえでの実務ポイント
1.最初に「総枠」を決める
個人ごとの付与数から積み上げるのではなく、まず会社全体としてどの程度の潜在株式枠を持つかを決める方が整理しやすくなります。
そのうえで、採用用、経営陣用、将来の昇格者用など、用途別に枠を分けて考える方法が実務的です。
2.一度に使い切らない
創業初期に広く大きく配りすぎると、後続ラウンドや重要人材の採用時に使える余地がなくなります。
ストックオプションは、制度を作ること自体よりも、将来の配分余力を残すことが重要です。経済産業省のガイダンスでも、各社のフェーズや採用事情を踏まえた検討が必要とされています。
3.投資契約や既存株主との整合を確認する
希薄化は、法務・税務だけでなく、投資家との関係にも直結します。
既存の投資契約や株主間の合意で、新株予約権の発行やオプションプールに関する制約が置かれていることもあります。希薄化の設計は、会社内部だけで完結する論点ではありません。
まとめ
ストックオプションによる希薄化は、単なる「株数の増加」ではなく、既存株主の持分、将来の資金調達、IPO時の説明可能性に影響する資本政策上の論点です。
実務では、次の順番で整理すると検討しやすくなります。
まず潜在株式数を含めた全体像を把握し、そのうえで希薄化率を試算し、最後に採用計画や資金調達計画と整合するかを確認する、という流れです。
ストックオプションは、希薄化があるから避けるべき制度ではありません。
一方で、希薄化を「あとで考える事項」と捉えると、資本政策全体が崩れやすくなります。導入の段階で、個数ではなく潜在株式ベースの管理まで行うことが重要です。
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