ストックオプション(新株予約権)は、従業員や役員に対するインセンティブとして付与されることが多い一方、相続の場面では「評価対象財産」として相続税評価の対象となる資産です。
とりわけ非上場企業が発行するストックオプションは、評価の不透明さや権利行使条件の複雑さから、税務・法務の両面で慎重な対応が求められます。
本コラムでは、ストックオプションの相続税評価の基本的な仕組みと、実務で押さえるべき法的注意点を整理して解説します。
ストックオプションは相続財産として評価対象となるのか?
結論からいえば、ストックオプション(新株予約権)は金銭的価値を有する財産であり、相続税評価の対象となります。
会社法上、ストックオプションは「新株予約権」とされ、特定の条件のもとで将来的に株式を取得できる権利として位置づけられます。
この「権利」自体に価値がある以上、相続時に被相続人が保有していた場合には、相続財産として評価・申告が必要となります。
ストックオプションの評価方法―基本式と留意点
相続税におけるストックオプションの評価は、次の基本式に基づきます。
【SO評価額】=(課税時期における株式の時価 − 権利行使価額) × 取得可能株式数
この評価式は、行使時点での経済的利益の見込額をそのまま反映する構造となっており、「課税時期」とは通常、被相続人の死亡日(相続開始日)を意味します。
【上場企業株式の場合】
- 評価時点の市場価格(終値)を基準に評価
- 「相続発生日の終値」「相続月の平均」「前月の平均」「前々月の平均」の4つのうち最も低い価格で評価するのが原則(国税庁通達)
※これは相続人に不利益が生じないよう、低い株価を採用できる配慮措置です。
【非上場企業株式の場合】
- 市場価格が存在しないため、評価手法の選定・算定根拠の整理が不可欠
- 財産評価基本通達に基づき、類似業種比準方式/純資産価額方式/併用方式などで評価
- 実務では、税理士等の専門家による評価書作成が不可欠
ストックオプションの処分可否と法的な制約
相続財産としての評価に加え、その後の処分(譲渡・放棄・買取)についても、会社との契約内容によって制約を受けるケースが大半です。
● 代表的な制限内容
- 譲渡禁止条項(譲渡不可、相続限定)
- 買取請求不可
- 失効条件(退職・相続による失効)
これらの制限は、登記事項証明書には記載されない場合もあるため、必ず新株予約権引受契約書・付与通知書・株主間契約等の条項確認が必要です。
評価にあたっての実務対応フロー
ステップ | 内容 |
---|---|
① 契約書の確認 | 付与日・行使価額・行使期間・譲渡制限の有無を確認 |
② 株式価額の算定 | 上場・非上場に応じて適切な評価手法を選定 |
③ 評価式に代入 | 所得の期待値を算定(マイナスであれば評価0円もあり得る) |
④ 財産目録への記載 | 他の財産と同様に相続財産一覧へ反映 |
⑤ 譲渡・放棄の可否確認 | 処分可否と、会社側の同意要否を確認 |
実務上の論点―「評価ゼロ」となるケースもある?
ストックオプションは、将来の株価次第では価値が実現しない可能性があるため、相続時点で評価ゼロとなることもあります。
とくに、以下のようなケースでは、権利自体が経済的価値を持たない(と評価される)可能性もあります。
- 行使価額 ≧ 株式価額(=利益が見込めない)
- 行使期間が終了している or 失効条件に該当
- 権利行使が「IPO成功時」など外的要件に依存している
相続対策としてのストックオプションの取り扱い
被相続人がSOを保有している場合、事前の対策を行わずに相続が発生すると、相続人に多大な申告負担・評価コスト・権利不確実性を負わせる可能性があります。
【対策例】
- 相続前にストックオプションを放棄 or 買取請求
- 事業承継対策として、SO自体の設計を見直す
- ストックオプションの相続時課税回避を意図したスキーム設計
例:信託型SO/相続前の移転不可設計/付与対象の見直し 等
専門家によるアドバイスが不可欠です
ストックオプションは「資産性」「契約制限」「税法評価」の三要素が交錯するため、相続税法だけでなく、会社法・金融商品取引法・商業登記実務等の複合的な視点が必要です。
相続が発生した後では手遅れになることもあるため、早めの設計・助言をお勧めします。
ストックオプション評価や相続実務でお困りの方へ
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