ストックオプション(新株予約権)の会計処理において、
実務担当者からよく出る疑問の一つが、
- 株価が大きく変動しているのに、なぜ評価を見直さないのか
- 失効が増えたのに、評価単価はそのままでよいのか
という点です。
結論から言えば、
ストックオプションの公正な評価単価は、原則として付与日で確定し、その後は見直しません。
本コラムでは、この取扱いが採られている理由を、会計基準の考え方に沿って整理します。
1. 会計基準が前提としている「評価の役割」
ストックオプション会計における評価単価は、
株価の将来予測を反映し続けるためのものではありません。
会計基準が評価単価に求めている役割は、
- 付与時点において
- 企業が従業員等から取得すると見込まれる労働サービスの対価を
- 合理的に見積ること
にあります。
つまり、
評価単価は「将来の結果」を反映するものではなく、
付与時点の条件に基づく対価の見積額として位置づけられています。
2. 評価単価を毎期見直さない理由
(1) 労働サービスは過去に提供されている
権利確定日前に計上される株式報酬費用は、
- 将来の株価上昇・下落に対する対価
ではなく - すでに提供された、または提供されつつある労働サービス
に対応するものです。
そのため、
後から生じた株価変動を理由に評価単価を修正することは、
過去の労働サービスの価値を事後的に書き換えることになります。
この点が、会計基準上許容されていません。
(2) 評価と見積りの役割分担が明確に分かれている
会計基準では、
- 評価単価
- ストックオプション数
を明確に分けて整理しています。
- 評価単価
→ 付与日時点で固定 - 数量(失効見込み)
→ 権利確定日まで随時見直し
という役割分担です。
このため、
- 失効が増えた
- 実際に退職者が出た
といった事象は、
評価単価ではなく数量の調整で反映します。
3. 見直しが認められる唯一の例外
評価単価の見直しが認められるのは、
付与条件そのものが変更された場合に限られます。
具体的には、
- 行使価格の変更
- 権利行使条件の変更
- 付与内容の実質的な変更
などが該当します。
この場合は、
変更後の条件に基づいて、新たに評価を行う
という整理になります。
単なる株価変動や業績変化は、見直し理由にはなりません。
4. 評価単価を固定することによる実務上の意味
評価単価を付与日で固定する取扱いには、
次のような実務的な意味があります。
- 費用計上の予見可能性が確保される
- 事後的な恣意性が排除される
- 監査対応において説明軸が明確になる
もし評価単価を毎期見直すことが許されていれば、
費用額は結果論で変動し、
会計情報としての比較可能性が失われることになります。
5. 実務で混同しやすいポイント
実務上、次の点は混同されやすいため注意が必要です。
- 評価単価は固定
- 付与数は見直す
- 費用配分は進行する
評価を「一切見直さない」という意味ではなく、
見直す対象が限定されているという整理になります。
まとめ
- ストックオプションの評価単価は付与日で原則確定
- 株価変動や業績変化は見直し理由にならない
- 失効見込みは数量で調整する
- 見直しが認められるのは条件変更がある場合のみ
- 評価単価固定は会計情報の一貫性を確保するための仕組み
ストックオプション会計における評価単価は、
「未来を追いかけるための数値」ではなく、「付与時点の対価を確定させるための数値」です。
この位置づけを理解することが、実務対応の前提となります。
※本コラムは、企業会計基準および適用指針に基づく一般的な整理を目的としています。
個別具体的な会計処理については、監査法人・会計専門家への確認が必要です。
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