ストックオプション(SO)は、ベンチャー企業において「人材インセンティブ」として語られることが多い制度です。しかし実務の現場では、報酬制度として扱うのか、資本政策の一環として扱うのかによって、設計・手続・リスクの所在が大きく変わります。
本コラムでは、ストックオプションを会社法上の新株予約権制度に立ち戻って整理し、「報酬性」と「資本性」という2つの視点から、実務上の分岐点を解説します。
1.ストックオプションの本質は「新株予約権」である
ストックオプションは、法律上はすべて新株予約権です。
「ストックオプション」という名称は、あくまで実務・慣行上の呼称にすぎません。
したがって、発行時には以下が常に問題となります。
- 会社法238条に基づく募集事項の決定
- 株主総会(原則として特別決議)の要否
- 新株予約権原簿・登記の要否
この点を曖昧にしたまま、「インセンティブだから簡易でよい」と考えると、後工程で必ず問題が顕在化します。
2.分岐点①報酬性をどう位置づけるか
(1)無償SO=当然に報酬、ではない
無償で付与されるストックオプションは、形式上「報酬」と評価されやすい設計です。しかし、報酬性がある=すべて給与課税になるわけではありません。
税制適格ストックオプションが典型ですが、これは
- 報酬性があることを前提に
- 一定の要件を満たす場合に限り
- 課税時期を株式譲渡時まで繰り延べる
という、例外的な制度です。
したがって、「無償だから安心」という理解は正確ではありません。
(2)有償SOでも報酬性が問題になる場面
有償ストックオプションは、対価を支払うため「投資性」が強調されがちですが、
- 発行価額が著しく低い
- 付与対象者が役員・従業員に限定されている
といった場合には、実質的な報酬性が問題となる余地があります。
報酬か否かは、形式ではなく経済的実質で判断される点に注意が必要です。
3.分岐点②資本政策としての扱い
(1)行使=将来の新株発行
ストックオプションは、行使された時点で新株が発行される(又は自己株式が交付される)ため、将来の株主構成に直接影響します。
特に次の局面では慎重な検討が必要です。
- VC投資前後
- シリーズB以降のラウンド
- IPO準備段階
「とりあえずSOを出す」という判断は、後のラウンドで調整コストを生みやすくなります。
(2)発行割合と希薄化管理
実務では、
- 発行可能株式総数に対する割合
- フルダイリューションベースでの持分
が問題になります。
ストックオプションは「まだ株式ではない」ものの、潜在株式として常に評価対象となる点を前提に設計する必要があります。
4.令和6年度税制改正後に意識すべき点
令和6年度改正により、税制適格ストックオプションについては、
- 行使期間の柔軟化
- 年間行使額の算定方法の変更
- 株式管理方法の見直し
が行われました。
これにより、制度としての使い勝手は向上しましたが、その反面、
「要件を正確に理解していないと適格性を失うリスク」も高まっています。
特に、設立年数や上場・非上場の区分によって計算方法が変わる点は、設計段階での確認が不可欠です。
5.実務でよくある設計ミス
実務上、次のような相談は少なくありません。
- 税制適格のつもりで設計したが、行使価額算定が甘かった
- 株主総会決議を簡略化してしまった
- IPO直前にSO比率が問題視された
- 退職時の取扱いを曖昧にしたまま付与した
これらはすべて、「報酬」「税務」「資本政策」を分断して考えた結果生じやすいものです。
6.まとめ
ストックオプションは、
- 報酬制度
- 税務制度
- 資本政策
の交差点にある制度です。
どの側面を重視するかによって、最適な設計は企業ごとに異なります。
重要なのは、「他社もやっているから」という理由ではなく、
自社の成長フェーズ・株主構成・将来計画に照らして整理することです。
※本コラムは一般的な制度整理を目的としたものであり、具体的な発行・設計にあたっては、必ず専門家に個別相談のうえ判断してください。
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