スタートアップにおいてストックオプション(SO)は、「優秀な人材を惹きつけるための報酬」として語られることが多い制度です。
しかし実務の現場で見ていると、SOを単なる報酬の延長として捉えてしまった結果、制度が機能しなくなるケースも少なくありません。
本コラムでは、企業側の視点から、SOを「制度」としてどう捉え、どう設計すべきかを整理します。
1.なぜストックオプションは誤解されやすいのか
1-1.「将来もうかる報酬」という単純化
SOはしばしば「将来、株価が上がれば大きく儲かる報酬」と説明されます。
もちろんそれは事実ですが、それだけを強調すると、制度の本質が見えなくなります。
SOは現金報酬の代替ではなく、
企業価値の成長と人材のコミットメントを結びつけるための仕組みです。
1-2.付与しただけで機能すると考えてしまう
「SOを付与した=モチベーションが上がる」
この前提が、実務では成立しないことも多々あります。
・行使条件が理解されていない
・行使時期が遠すぎて現実味がない
・自分がどれだけ持っているのか分からない
こうした状態では、SOは存在しないのと同じ制度になってしまいます。
2.ストックオプションの本質は「リスクの共有」
2-1.現金報酬との決定的な違い
給与や賞与は、原則として成果の有無にかかわらず支払われます。
一方、SOは企業が成功しなければ価値がゼロになる可能性を含む制度です。
つまりSOとは、
「会社が成功すれば一緒にリターンを得るが、失敗すれば何も残らない」
という、経営者と同じ方向を向いたリスク共有の仕組みです。
2-2.誰に付与する制度なのか
この性質を踏まえると、SOはすべての従業員に一律に配るべき制度ではありません。
・中長期で事業に関与する人材か
・企業価値向上に直接影響する立場か
・リスクを理解したうえで受け取れるか
こうした観点を無視すると、
「もらっても嬉しくないSO」が量産されることになります。
3.制度として機能するSO設計のポイント
3-1.ベスティングは「縛り」ではなく「設計思想」
ベスティング期間は、単なる離職防止策ではありません。
企業側が示すべきなのは、
「どの期間、どのフェーズに価値を発揮してほしいか」というメッセージです。
短期成果を求めるのか、
上場までの伴走を期待するのか。
この思想が曖昧なまま年数だけを決めると、制度は形骸化します。
3-2.付与比率は“公平”より“納得”
SO設計でよく問題になるのが「誰がどれだけ持つか」です。
ここで形式的な公平性を追いすぎると、かえって不満を生みます。
重要なのは、
本人が「その比率である理由を理解できるか」という点です。
3-3.税制適格か有償かは目的次第
税制適格SOと有償SOの違いは、節税テクニックではありません。
行使期限・金銭負担・心理的効果を含めた制度選択の問題です。
・短期〜中期での成長を想定するのか
・長期研究開発型の事業なのか
・従業員にどこまでの覚悟を求めるのか
これらを整理したうえで、初めて選択肢が見えてきます。
4.ストックオプションが「効かない会社」の共通点
実務上、SOが形だけになっている会社には共通点があります。
・制度説明が一度きり
・行使や売却のイメージが共有されていない
・経営側と従業員側で期待値がズレている
SOは、付与して終わりではなく、
時間とともに育てていく制度です。
5.まとめ、ストックオプションは経営メッセージ
ストックオプションは、
「あなたとこの会社は、同じ未来を見ていますか?」
という問いを制度として形にしたものです。
報酬設計の一部として軽く扱うのではなく、
経営戦略・人材戦略と一体で設計する制度として向き合うことが、
スタートアップにおけるSO成功の前提条件といえるでしょう。
実務上の注意
本コラムは一般的な考え方を整理したものです。
実際のストックオプション設計・発行・税務判断については、
必ず法務・税務の専門家に確認したうえで進めてください。
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