ストックオプション(SO)を役員に付与したとき、会社はその分を「経費(損金)」にできるのでしょうか?
答えは──ケースによって違います。
しかも、平成29年の税制改正でルールが大きく変わり、判断がかなり複雑になりました。
この記事では、法人税の観点から「損金にできる場合」と「できない場合」を、シンプルに整理します。
そもそも会社の費用になるのか?
ストックオプションを役員に与えるということは、
「お金の代わりに“株を買える権利”を報酬として渡している」
という行為です。
このため、会社から見れば「役務提供(働いてもらった)」の対価であり、原則として費用性があります。
ところが、ストックオプションは「もらってすぐは価値が確定しない」ため、所得税と法人税のタイミングがズレます。
個人と会社で“課税のタイミング”が違う
| タイミング | 役員(個人) | 会社(法人) |
|---|---|---|
| ストックオプション付与時 | 課税されない | 経費にもならない |
| 行使時(株を買う時) | 株価-行使価額=給与所得として課税 | 付与時の時価分を損金計上できる |
| 株を売却したとき | 売却益に譲渡所得課税 | 関係なし |
つまり、会社は「行使されたタイミング」で初めて損金計上ができます。
これが法人税法54条の2(いわゆる「繰延ルール」)です。
損金にできるかどうかの判断手順
ストックオプションを役員に付与した場合は、次の2段階で判断します。
STEP① 法人税法34条で「損金にできる給与か」を判定
まず、役員に対する給与全般のルールに従ってチェックします。
| 区分 | 損金算入可否 |
|---|---|
| 定期同額給与(毎月同額の給与) | 可 |
| 事前確定届出給与(あらかじめ支給額と時期を届け出ている) | 可 |
| 業績連動給与(利益指標などに連動) | 可(要件あり) |
| 上記以外(臨時・不確定) | 原則、損金不算入 |
ストックオプションは、このうち「事前確定届出給与」や「業績連動給与」に近い位置づけです。
ただし、税制上の条件を満たさない場合は損金不算入になります。
STEP② 法人税法54条の2で「いつ損金にできるか」を判定
34条で損金算入が認められても、すぐに経費化できるわけではありません。
SOは権利の性質上、「働いてもらった時点」では価値が未確定。
そのため、行使されたタイミングで損金にできるというルールがあります。
これが「損金算入時期の繰延べ」です。
行使時にようやく「役員報酬」として経費処理できます。
税制適格SOと非適格SOで違うのか?
ここでよくある誤解です。
「税制非適格SOは損金になる」「適格SOはならない」──
これは半分正解で、半分間違いです。
- 税制適格SO:役員個人には行使時課税がない。よって会社側も損金にできない。
- 税制非適格SO:行使時に役員が給与課税を受ける。その分、会社は損金計上できる。
ただし、非適格SOであっても、法人税法34条のルール(業績連動や届出給与)を満たしていないと損金にできません。
「非適格だから自動で損金」という考えは誤りです。
仕訳のイメージ(非適格SO)
付与時
(借方)前払費用 ××× /(貸方)新株予約権債務 ×××
行使時(給与等課税事由の発生時)
(借方)役員報酬 ××× /(貸方)前払費用 ×××
- 「付与時の時価」が損金の対象になる
- 「行使時の株価-行使価額」ではない点に注意
グループ会社で親会社SOを子会社役員に付与する場合
親会社が発行したSOを、子会社の役員に付与するケースもあります。
この場合
- 子会社:役員報酬として費用を計上(損金算入の可否は上記ルールどおり)
- 親会社:子会社からの支払いを受け、新株予約権を発行(資本金等増加)
子会社の損金算入は可能ですが、子会社自身の株式が発行されるわけではないため、資本金には影響しません。
まとめ、判断フロー
① 34条(役員給与ルール)で損金性チェック
↓
② 54条の2(繰延べルール)で損金時期チェック
↓
③ 税制非適格SOなら、行使時に損金算入可
※要件を満たさないと不算入
実務上の注意点
- 別表14(4)(新株予約権に関する明細書)は必ず添付
- 有償SOは原則損金にならない
- 付与時に経費化しない。行使時に損金計上
- 税制適格SOは、個人・法人いずれも「行使時非課税=損金不算入」
まとめの一言
ストックオプションは、
「損金になるか」と「いつ損金になるか」が別の問題。
この2段階を踏むことで、法人税の取扱いはすっきり整理できます。
