新株予約権(ストックオプション)は、株主総会や取締役会で発行決議をした後、個別の引受人に割り当てることで効力が生じます。
しかし実務では、次のようなケースが少なくありません。
- 「発行決議はしたが、結局誰にも渡さなかった」
- 「割当予定だった役員が辞退した/退職した」
- 「期限までに申込みや払込がなかった」
このような場合、新株予約権は「存在しないまま」なのか、「発行済みとして登記され、放置された状態」なのか?
そして、会社としてどう処理すべきなのか――今回はその実務上の論点を解説します。
1.発行決議だけでは、新株予約権は「成立しない」
会社法上、新株予約権は「発行決議」だけで自動的に発行されるわけではありません。
以下の手続きを経て、はじめて“発行済”となります。
- ① 発行決議(株主総会または取締役会)
- ② 引受人による申込み
- ③ 割当(引受の承諾)
- ④ 払込(有償の場合)
→したがって、②〜④が行われなければ、そもそも発行されていない(登記義務もない)という整理になります。
2.「発行決議はしたが、誰にも割り当てなかった」場合の法的位置づけ
このケースでは、以下のいずれかになります
- 無償SO:申込・承諾がなければ「契約未成立」=未発行
- 有償SO:払込がなければ「履行未了」=未発行
つまり、登記も不要・契約も不成立であり、会社側としては「空振りに終わった発行決議があっただけ」という整理です。
3.消滅登記の注意点と登記懈怠リスク
有効に発行されたSOでも割当者が放棄などした場合は、新株予約権消滅の登記手続きをする必要があります。
登記を怠ると様々なリスクが生じます。
- 実質的に無効なSOが登記上残っていると、株式希薄化の可能性があるように見えてしまう
- M&Aや資金調達の際に、キャップテーブルに齟齬が出る原因となる
- 登記懈怠が継続していると、会社法に基づく過料リスク(最大100万円)の対象にもなり得る
4.今後の運用上の教訓
- 「とりあえず決議だけしておく」はNG:発行するなら割当スケジュールを明確に
- 発行決議後は、速やかに契約締結・払込等を進める体制を
- 登記先行型になってしまった場合は、現状確認の上、必要に応じて消却手続を
発行したつもりのストックオプション、本当に発行されていますか?
ストックオプションの発行は、決議・契約・払込・登記が一連の流れで成立してはじめて「効力を持つ」ものです。
「誰にも渡さなかった」まま放置していると、
- 実体と登記の不整合
- 税務や監査上のリスク
- キャップテーブルへの誤反映
といった形で、将来的なトラブルの火種になりかねません。
もし心当たりがある場合は、今のうちに専門家と一緒に棚卸・整理しておくことをおすすめします。