スタートアップ企業やIPO準備会社にとって、ストックオプション(SO)は、資金を使わずに人材を惹きつけるインセンティブ制度として、年々注目度を高めています。
本コラムでは、ストックオプション制度の基本から、税制・会計・種類別の比較、IPOとの関係まで、初学者でもわかりやすく、実務者にとっても即戦力となる視点で網羅的に解説します。
ストックオプションとは?―企業が発行する「将来の株式取得権」
ストックオプションとは、あらかじめ定められた価格・株数・期間内に、自社株式を購入できる権利(=新株予約権)です。
IPO後、株価が上昇したタイミングで権利行使→株式売却を行えば、行使価額と売却価額の差額=キャピタルゲインを得ることができます。
例:行使価額100円/株 → 上場後に市場価格1,000円で売却 → 差額900円が利益
このように、企業の成長=個人の報酬に直結するため、ストックオプションはベンチャー企業で多く導入されています。
新株予約権との違い
会社法上、ストックオプションは「新株予約権(会社法2条21号)」の一種です。
ただし、一般的には以下のような違いがあります
項目 | ストックオプション | 新株予約権(一般) |
---|---|---|
対象者 | 役職員・外部協力者等 | 投資家・提携先等 |
目的 | インセンティブ報酬 | 資金調達・防衛策等 |
発行価格 | 無償または有償 | 通常有償(オプションプレミアム) |
仕組みの基本
ストックオプションは、以下のような流れで利益が生じます。
- あらかじめ定められた価格(行使価額)で株を取得できる権利を付与
- 上場等により株価が上昇
- 権利行使 → 株を取得 → 市場等で売却
- 売却価額 − 行使価額 = 利益(キャピタルゲイン)
企業・従業員それぞれのメリットと留意点
【企業側のメリット】
- 現金支出を伴わず優秀人材を獲得可能
- 給与の代替として損益に計上しにくいため資本効率が良い
- 社外専門人材との関係構築にも有効(社外役員・顧問等)
【従業員側のメリット】
- IPO時に大きなキャピタルゲインが期待できる
- 税制適格要件を満たせば20.315%の譲渡所得課税のみ
- 損失リスクが限定的(行使しなければ購入義務なし)
【主な注意点】
- 発行数が多すぎると株主構成が崩れIPO審査に影響
- 付与基準が不明確だと社内の不満・離職につながる
- 会計・税務上の処理を誤ると多額の負担が発生することも
ストックオプションの種類と課税関係
区分 | 税制適格SO | 税制非適格SO | 有償SO | 信託型SO |
---|---|---|---|---|
権利付与時 | 無償 | 無償 | 有償 | 無償(実質) |
行使時課税 | なし | 給与課税あり | 原則なし | 給与課税あり |
売却時課税 | 譲渡所得(20.315%) | 譲渡所得 | 譲渡所得 | 譲渡所得 |
柔軟性 | 低(要件あり) | 高い | 中 | 制約あり/原則非適格 |
計上要否 | 要件次第で費用計上あり | 同左 | 一部費用計上あり | 会計費用あり/複雑 |
税制適格ストックオプションの要件(2024年改正反映)
- 行使価額が契約時点の株価以上
- 権利行使期間:2年超〜10年以内(未上場は15年以内可)
- 年間行使限度:最大3,600万円(2024年改正)
- 譲渡制限株式であること/株式管理方法を明示
- 特定対象者(取締役・使用人等)に限定
- 信託型SOは原則非適格(給与課税対象)
評価と会計処理の注意点
● 権利行使価額の評価方法
- 原則方式:所得税基本通達ベース
- 特例方式:財産評価基本通達ベース(セーフハーバールール)
※後者を使えば行使価額を低く抑えることも可能だが、会計上の時価との差額を株式報酬費用として処理する必要あり
IPO準備におけるSO設計のポイント
- 株価が上がる前(早期)に発行しておく
- 一括発行で株価変動による非適格化を防ぐ
- ベスティング条項(段階的行使条件)で離職対策
- 発行上限は10〜15%が目安、乱発は禁物
- IPOゴールではなく、持続的成長と整合した設計が重要
ストックオプションと持株会制度との違い
項目 | ストックオプション | 従業員持株会 |
---|---|---|
負担 | 原則なし(行使時) | 拠出あり(給与天引き) |
株主権発生 | 行使後 | 即時発生 |
損失リスク | 行使しなければ損失なし | 株価下落による含み損あり |
安定株主性 | 低 | 高(長期保有前提) |
公平性 | 企業側裁量大 | 社員の自由加入型 |
導入時は専門家への相談を
ストックオプションの設計・評価・契約・登記・会計処理まで、一貫したスキーム構築が求められます。
制度の仕組み自体は明確でも、発行後の「課税リスク」「IPO審査への影響」「社内トラブル」など多くの盲点が潜んでいます。
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