ストックオプション(SO)を導入する際、最も重要でありながら誤解が多いのが「権利の消滅」に関する規定です。
上場準備企業をはじめ、多くの会社で契約書に曖昧な記載が残っていると、後の登記や税務・会計処理に影響を及ぼすことがあります。
本コラムでは、ストックオプション契約書のうち、取得条項と失効条項について、会社法上の根拠と実務設計のポイントを整理します。
取得条項と失効条項の基本的な違い
| 区分 | 取得条項 | 失効条項 |
|---|---|---|
| 意味 | 会社が新株予約権を「取得(買い取る)」することができる条項 | 権利者が一定の事由に該当した場合に「権利を失う」条項 |
| 効力発生主体 | 会社の意思による | 条件成就により自動発生 |
取得条項(会社が権利を取得する場合)
(1)法的根拠
会社法第236条第1項第5号は、新株予約権の内容として「会社がその新株予約権を取得することができる旨およびその取得の条件」を定めることができるとしています。
(2)実務での位置づけ
取得条項は、主に組織再編・IPO・退職対応などの場面で設定されます。
典型例は以下の通りです。
- 合併や株式交換によりSOを整理する場合
- 退職時に付与済SOを無償取得する場合
- 税制適格SOを維持するため、特定の譲渡事由発生時に取得する場合
(3)登記実務上の注意点
- 登記事項に該当するため、発行決議時の内容をそのまま登記する必要があります。
- 「取得の条件」および「取得対価の有無」を明記することが求められます。
例: 「会社は、当該新株予約権者が退職したときは、当該新株予約権を無償で取得することができる。」
この記載が登記簿に反映されることで、第三者に対する公示機能が担保されます。
失効条項(権利者側の行為で権利が消滅する場合)
(1)法的根拠
会社法に明文の規定はなく、契約自由の原則に基づき定められます。
実務的には、行使条件条項の一部として規定するのが一般的です。
(2)典型的な定め方
- 「新株予約権者が退職した場合には、当該新株予約権は行使できず失効する」
- 「付与日から2年以内に上場が実現しない場合には失効する」
- 「死亡した場合は相続人に承継されず、当然に失効する」
取得条項・失効条項の併用に関する注意
両条項を重複して定める場合、優先関係を明確にする必要があります。
例
「権利者が退職した場合は、当該新株予約権は失効する。ただし、会社が別途取得する場合を妨げない。」
このように、「自動失効」と「会社による取得」を明確に切り分けておくことで、
後日の解釈トラブル(「どちらが先に発生したか」など)を防止できます。
契約書作成時の実務チェックリスト
- 取得条項の条件と対価の有無を明示しているか
- 登記簿に記載すべき内容が決議書と一致しているか
- 失効事由が明確に定義されているか(退職・死亡・期間満了など)
- 両条項を併用する場合の優先関係を明確にしているか
- 条項が税制適格要件を損なわないか(税理士確認)
まとめ
取得条項と失効条項は、いずれも「新株予約権を整理するための重要な条項」ですが、
会社法上の性質・登記要否・効果発生の主体が異なります。
登記・会計・税務のいずれにも影響するため、
契約書・決議書・登記簿の三者を照合し、文言の整合性を保つことが最も重要です。
【免責事項】
本コラムは法令および実務の一般的説明を目的としたものであり、特定の契約書の作成や登記申請を指導するものではありません。
実際の条項設計・登記事項確認にあたっては、司法書士・弁護士・税理士などの専門家へご相談ください。
