ストックオプション(SO)は、役員や従業員の貢献意欲を高めるための有効な制度ですが、制度設計や契約書の作成を誤ると、将来的に「権利が残ってしまう」「税制適格要件を満たさない」などの問題が生じます。
本コラムでは、SO契約における取得条項と失効条項の位置づけと、実務上の留意点を整理します。
取得条項と失効条項の基本的な違い
| 区分 | 取得条項 | 失効条項 |
|---|---|---|
| 概要 | 会社が新株予約権を「回収」できる条項 | 権利者の地位が自動的に消滅する条項 |
| 効力発生 | 会社の意思表示(取締役会決議など)により発動 | 条件成就により自動的に消滅 |
| 登記事項 | あり(取得条項付新株予約権) | なし(登記は不要) |
取得条項は「会社が取得できる条件」、失効条項は「権利が自然消滅する条件」を定めるものであり、似て非なる概念です。
特に取得条項を設ける場合は会社法上の登記事項となるため、決議・登記の整合性を確保する必要があります。
取得条項の実務的意義
取得条項は、次のようなケースを想定して設けられます。
- 組織再編(合併・株式交換など)によりSOを一括処理したい場合
- 上場後の税制適格維持を目的として、一定時点で権利を整理したい場合
- 退職・解任者のSOを回収し、株主構成を維持したい場合
取得条項を設けることで、会社が主体的に新株予約権を買い戻す権限を持つことができます。
取得方法には「無償取得」と「対価取得」があり、特に無償取得の場合は、税務上の評価や適格要件との整合性を事前に確認することが重要です。
失効条項の実務的意義
失効条項は、付与対象者が在職条件を満たさなかったり、一定の行為をした場合に権利を自動的に消滅させるためのものです。
典型的な条項例は次のとおりです。
- 退職・解任した場合は未行使分が自動的に失効する
- 会社の承認なしに第三者へ譲渡した場合は失効する
- 重大な背信行為(競業・機密漏洩等)があった場合は失効する
失効条項は税制適格SOの要件維持にも不可欠です。
権利行使資格を「在職者」に限定し、譲渡制限を明示しておくことで、税務上の「譲渡制限付新株予約権」として扱うことができます。
登記実務上の注意点
(1)取得条項付きSOの発行登記
取得条項を設けた場合は登記が必要です。
登記簿上には以下のように記載されます。
「当会社は、取締役会の決議により、新株予約権の全部又は一部を無償で取得することができる。」
(2)失効条項は登記不要
失効条項は会社法上の登記事項ではないため、登記簿に記載されません。
一方で行使条件は登記がされます。行使条件として定める場合が多いように思えます。
契約書作成時の実務ポイント
契約書や株主総会決議での条項設計にあたっては、以下の点を確認しておくと実務上トラブルを防げます。
| 検討事項 | チェックポイント |
|---|---|
| 取得条項 | 決議書と契約書で同一条件になっているか/登記事項に反映済か |
| 行使期間 | 「付与後2年以上10年以内」などの税制適格要件を満たしているか |
| 条項の整合性 | 契約書・議事録・登記簿で条件が矛盾していないか |
| 文言の実務性 | 「自動的に失効する」「取締役会の決議により取得する」など、機能の違いを明確化しているか |
まとめ
取得条項と失効条項は、どちらも「権利の消滅」に関する条項ですが、
- 取得条項=会社主導(登記必要)
- 失効条項=条件自動(登記不要)
という本質的な違いがあります。
また、税制適格SOの維持には、「譲渡制限」「在職条件」「行使期間」の三要素などが不可欠です。
契約書の条文は、法務・会計・税務の観点から整合性を取ることが、上場審査・監査でも求められます。
【免責事項】
本記事は、法令及び実務の一般的な解説を目的としたものであり、特定の取引や契約内容について法的助言を行うものではありません。
