ストックオプション(SO)は、人材インセンティブや報酬制度として語られることが多い一方で、法的には一貫して「新株予約権の発行」*です。
この前提を十分に意識しないまま制度設計を進めると、税務以前に、会社法上の手続不備という根本的な問題を抱えることになります。
本コラムでは、ストックオプション発行において最低限押さえるべき会社法上の整理と、実務で実際に起こりやすいミスを中心に解説します。
1.ストックオプションは「特別な制度」ではない
まず確認すべき点は、ストックオプションが会社法上の特別な制度ではないということです。
あくまで、
- 会社法236条以下に基づく
- 新株予約権の一形態
にすぎません。
「従業員向け」「インセンティブ目的」といった事情があっても、
発行行為そのものは通常の新株予約権発行と同一です。
2.発行時に必ず検討すべき会社法上の論点
(1)株主総会決議の要否
ストックオプションの発行は、原則として株主総会の特別決議が必要となります。
これは、有利発行か否かを問わず問題となる点です。
実務では、
- 「役員・従業員向けだから簡易でよい」
- 「有利発行でなければ普通決議で足りる」
といった誤解が見られますが、募集新株予約権の発行である以上、特別決議が原則という整理は変わりません。
(2)募集事項の具体性
会社法238条に基づき、少なくとも以下の事項は明確に定める必要があります。
- 新株予約権の内容
- 行使価額
- 行使期間
- 割当対象者の範囲
特にストックオプションでは、
「従業員の範囲を後で決める」
「詳細は契約書に委ねる」
といった設計がなされがちですが、株主総会決議事項との乖離が生じないよう注意が必要です。
3.新株予約権原簿・登記の位置づけ
(1)原簿管理は形式ではない
新株予約権を発行した場合、新株予約権原簿の備置義務が生じます。
これは、税制適格・非適格を問わず共通です。
実務上、
- 契約書だけで管理している
- Excel管理で原簿を作っていない
といったケースも見受けられますが、これは会社法上適切とはいえません。
(2)登記が必要となる場面
新株予約権を発行した場合、新株予約権の発行について登記が必要となります。
また行使などが生じて、発行数などに変更が生じた場合、行使に伴う変更登記が必要となります。
4.「税務以前」に問題となる典型例
ストックオプションの相談では、税制適格・非適格に議論が集中しがちですが、
実務では次のような会社法レベルの問題が先に発覚するケースも少なくありません。
- 株主総会決議が存在しない
- 決議内容と契約内容が一致していない
- 原簿が未整備
- 行使条件が決議事項を超えて変更されている
これらは、税務以前に発行そのものの適法性が問われる問題です。
5.資本政策との接続点としての会社法整理
ストックオプションは、行使されると株式が発行されるため、
将来の株主構成を前提にした制度です。
- 発行可能株式総数との関係
- 将来ラウンドでの希薄化
- IPO時の潜在株式評価
これらはすべて、会社法上の設計が前提となります。
会社法の整理が甘いまま進めたストックオプションは、後工程で必ず修正コストを生みます。
6.まとめ
ストックオプションは、「税制」や「インセンティブ設計」の前に、
会社法上の新株予約権発行として正しく整理されているかが最重要です。
制度自体は珍しいものではありませんが、
- 決議
- 募集事項
- 原簿・登記
といった基本的な手続きを軽視すると、後戻りが難しくなります。
ストックオプション導入を検討する際には、まず「これは新株予約権発行である」という原点に立ち返り、
会社法上の整理が通っているかを確認することが不可欠です。
※本コラムは一般的な制度整理を目的としたものであり、具体的な設計・発行については、必ず専門家に個別相談のうえ判断してください。
