役員や従業員へのインセンティブ制度の一つとして、ファントムストック(Phantom Stock, PS)を導入する企業が増えています。
実際の株式を発行することなく、株価に連動した金銭を将来支給する制度であり、ストックオプションや譲渡制限付株式と並ぶ株式報酬の選択肢です。
1. ファントムストックの仕組み
- 実際の株式は発行されない
- あらかじめ付与された「疑似株式数」に応じ、株価上昇分を金銭で支給
- 支給時期は在籍年数や業績条件に連動させることが可能
2. ストックオプション等との違い
項目 | ファントムストック(PS) | ストックオプション(SO) | 譲渡制限付株式(RS) |
---|---|---|---|
発行形態 | 実際の株式を発行しない | 新株予約権を発行 | 実際の株式を付与 |
インセンティブ原資 | 株価上昇分を金銭で支給 | 株価上昇益 | 株式自体 |
希薄化 | 発生しない | 潜在株式分が希薄化 | 発行株式分が希薄化 |
税務 | 支給時に給与課税 | 適格SOなら売却時課税 | 付与時課税 |
3. メリット
- 株式の希薄化がないため、株主への影響を抑制
- 法的手続きが比較的簡易で、制度設計の自由度が高い
- 未上場企業でも導入しやすい
4. デメリット・留意点
- 税務上は支給時に**給与所得課税(累進課税 最大55.945%)**が発生し、譲渡所得課税(20.315%)のような優遇はない
- 金銭支給のため、会社のキャッシュアウト負担が必ず発生
- 株価算定の方法や支給条件が不透明だと、インセンティブ効果が低下
5. 実務上の活用場面
- 上場準備企業で、希薄化を嫌う投資家への配慮が必要な場合
- 上場会社で、株主の持分比率維持を優先する場合
- 社外役員やアドバイザーなど、株式付与が難しい対象者への報酬手段
まとめ
ファントムストックは、株価連動型の金銭報酬制度として、株式の発行を伴わずにインセンティブを設計できる制度です。
一方で、税務上は給与課税となり、会社側にキャッシュアウト負担が発生する点が大きなデメリットです。
ストックオプションや譲渡制限付株式と比較し、株主希薄化回避とキャッシュフロー管理のバランスを踏まえた導入が求められます。