創業期・成長期のベンチャー企業において、ストックオプション(SO)は人材確保やインセンティブ設計の一手段として広く用いられています。一方で、制度の理解が不十分なまま導入すると、税務上の不利益や株主構成への影響といった問題を招くおそれがあります。
本コラムでは、ストックオプションを会社法上の新株予約権制度の一類型として整理したうえで、実務上押さえておくべき設計ポイントを、令和6年度税制改正の内容も踏まえて解説します。
1.ストックオプションの制度的位置づけ
(1)ストックオプションの基本構造
ストックオプションとは、会社が役員・従業員等に対して、あらかじめ定めた条件に従い自社株式を取得できる権利を付与する仕組みです。
会社法上は「新株予約権」として発行され、その行使により株式が交付されます。
制度の本質は、将来の企業価値上昇と個人の報酬を連動させる点にあります。現時点での現金支出を伴わずに、将来の成果に基づく報酬設計を可能にする点が特徴です。
(2)新株予約権との関係整理
ストックオプションは、新株予約権の中でも、
- 主として役員・従業員等に付与される
- 労務提供の対価性が問題となり得る
という点で、資金調達目的の新株予約権とは設計思想が異なります。
税制上の取扱いも、この「対価性」を前提に特則が設けられている点に留意が必要です。
2.ベンチャー企業がストックオプションを採用する背景
(1)現金報酬に代わるインセンティブ設計
創業初期の企業では、潤沢なキャッシュを用いた報酬設計が難しい場面も少なくありません。
ストックオプションは、将来価値を報酬原資とする設計であるため、財務負担を抑えつつインセンティブを付与することが可能です。
(2)企業成長と個人利益の連動
株価や企業価値の上昇が個人の経済的利益に直結するため、経営目標と個人の行動が一致しやすい点も、制度採用の理由として挙げられます。
3.ストックオプションの類型整理
(1)税制適格ストックオプションと非適格ストックオプション
実務上、最も重要な区分が税制適格・非適格の別です。
| 区分 | 税務上の特徴 |
|---|---|
| 税制適格SO | 権利行使時課税なし、株式譲渡時に譲渡所得課税 |
| 非適格SO | 権利行使時に給与所得課税 |
税制適格SOは一定の要件を満たす必要があり、令和6年度税制改正により、行使期間・年間行使額の算定方法・株式管理方法等が見直されています。
(2)有償SOと無償SO
- 有償SO:付与時に対価を支払う設計
- 無償SO:対価を支払わずに付与する設計
税制適格SOは原則として無償であることが求められますが、有償SOは資本政策や評価の明確化を目的として利用されるケースもあります。
4.制度設計における主要論点
(1)会社法上の手続
ストックオプション発行には、原則として株主総会の特別決議が必要となります。
募集事項の内容(行使価額、行使期間、対象者等)は、会社法238条に基づき明確に定める必要があります。
(2)税務上の設計リスク
税制適格SOにおいては、
- 行使価額の算定
- 年間行使額の管理
- 対象者要件
など、形式要件を一つでも欠くと非適格扱いとなるリスクがあります。
特に令和6年度改正後は、行使額の算定方法が企業の設立年数等によって変わるため、制度設計段階での確認が不可欠です。
(3)株主構成・希薄化への影響
行使による新株発行は、既存株主の持分比率に影響を与えます。
将来の資金調達やIPOを見据えた発行上限・付与割合の設計が重要となります。
5.導入から行使までの実務フロー整理
- 制度導入目的の整理
- 税制適格・非適格の選択
- 株主総会・取締役会決議
- 新株予約権割当契約の締結
- 登記・原簿管理
- 行使時の株式発行・税務処理
制度設計と発行手続、行使後の管理は一体として考える必要があります。
6.専門家関与が求められる理由
ストックオプションは、
- 会社法
- 税法
- 会計基準
が交差する制度です。
設計段階での判断ミスは、後からの修正が困難となるケースも少なくありません。
特に税制適格性の判断や、既存オプションの見直しについては、専門家の関与が前提となる実務領域といえます。
7.まとめ
ストックオプションは、ベンチャー企業にとって有効な制度である一方、
「設計の巧拙が結果を大きく左右する制度」でもあります。
令和6年度税制改正により、制度の柔軟性は高まりましたが、その分、実務判断の重要性も増しています。
導入を検討する際には、単なるインセンティブ施策としてではなく、資本政策・税務・将来の成長戦略と一体で整理する視点が不可欠です。
※本コラムは一般的な制度整理を目的としたものであり、具体的な導入にあたっては、必ず専門家へ個別相談を行ってください。
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