税制適格ストックオプション(以下、適格SO)の設計において、行使価額の設定は要件充足の核心部分です。
しかし、企業の財務状況によっては、普通株式の評価額がゼロ(またはマイナス)となるケースがあります。
この場合の取扱いは制度上明確に定められており、適格SOの要件を維持するためには「備忘価額」の設定が必要です。
普通株式評価がゼロになるケース
普通株式の評価額は、基本的に純資産価額(資産−負債)を基に算定します。
ところが以下のような場合、純資産価額がマイナスとなり、普通株式の価額がゼロと評価されることがあります。
- 創業初期で累積赤字が多額
- 借入金等の負債超過
- 優先株式への優先分配を控除すると残余資産がゼロ以下になる
ゼロ評価時の行使価額設定ルール
評価額がゼロであっても、行使価額は0円にはできません。
税務上、行使価額は「備忘価額」として1円以上の任意の価額で設定する必要があります。
- 行使価額0円 → × 税制適格要件違反
- 行使価額1円(またはそれ以上) → 〇 要件充足可
この1円以上の設定は、税務上の形式要件を満たすために必要な措置です。
備忘価額設定の実務的ポイント
- 評価額がゼロであることの根拠資料を整備
- 純資産価額の計算根拠
- 優先株式分配控除後の残額計算
- 備忘価額の設定決議を明確化
- 株主総会・取締役会決議で価額設定を記録
- 付与契約書への明記
- 行使価額を明確に記載し、税務調査時に説明可能とする
普通株価ゼロの背景を考慮した制度設計
ゼロ評価は企業の財務健全性の指標にも直結します。
頻発する場合は、SOの付与設計そのものを見直し、以下のような対応も検討されます。
- 財務改善後に改めてSO発行
- 優先株式条件の再設定
- インセンティブ設計の複線化(株式報酬制度との併用など)
まとめ
普通株式の評価額がゼロとなる場合でも、税制適格SOでは行使価額を1円以上の備忘価額で設定する必要があります。
形式的な価額設定だけでなく、その根拠資料や決議記録を整備しておくことが、後の税務対応やIPO審査での信頼性につながります。