スタートアップ企業の資金調達では、投資家に対して優先株式を発行することが一般的です。
その際、優先株式には「投資額の回収」に加えて、投資額の1.5倍や2倍といった倍率で残余財産の優先分配を受けられる権利が設定されるケースがあります。
この条件は、税制適格ストックオプション(以下、適格SO)の株価評価にも直接的な影響を与えます。
優先分配権付き優先株式の仕組み
通常の優先株式は、残余財産分配において「払込額(投資額)」を優先的に回収できる権利を持ちます。
しかし契約によっては、単なる投資額の回収ではなく、1.5倍や2倍といった倍率を上乗せした優先分配額が認められる場合があります。
普通株式評価への影響
税制適格SOの行使価額要件を満たすかを確認する際、普通株式の価額を算定する必要があります。
このとき、優先株式の優先分配額が投資額を超える場合でも、その優先分配額全額を差し引いて計算することとされています。
計算イメージ
- 純資産価額を算定
- 優先分配額(投資額×倍率)を差し引き
- 残余を普通株式に按分
→ 優先分配の倍率が高いほど、普通株式の価額は低く算定される
適格SO設計上のリスク
- 優先分配倍率を反映せずに評価すると、普通株式価額を過大評価してしまう
- 行使価額が実態の株価未満となり、税制非適格SOと判定されるリスク
- 結果として、行使時に給与所得課税が生じ、制度のメリットが失われる
実務での確認ポイント
- 投資契約書の優先分配条項を精査
- 倍率が設定されているか(1.5倍・2倍など)
- 純資産価額からの控除額を正確に反映
- 倍率を掛けた金額を差し引いて普通株式評価を算定
- 税務・会計双方での整合性を確保
- 税務評価と会計処理の不一致を避けるため、専門家との協議を行う
まとめ
優先株式に倍率付きの優先分配額が設定されている場合、その分配額は投資額を超えていても全額控除するのがルールです。
適格SOの要件充足を確実にするためには、契約内容を正しく評価計算に反映し、普通株式の価額を過不足なく算定することが不可欠です。
ストックオプションや新株予約権の設計・評価・登記手続きについて
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