税制適格ストックオプション(以下、適格SO)の発行において、行使価額要件を満たすか否かは最も重要な判定ポイントです。
特に優先株式を発行している未上場企業では、普通株式の評価を誤ると、付与したSOが税制非適格扱い(行使時給与課税)になるリスクが高まります。
優先株式発行時の普通株式評価の原則
優先株式を発行している場合、普通株式の評価は以下の流れで行います。
- 純資産価額の算定(資産−負債)
- 優先分配権を有する優先株式への配分を先に控除
- 残余を普通株式に発行済株数比例で配分
このプロセスを経ずに、単純に全株式で均等割りした価額を行使価額とすると、優先分配分を反映しない不適正評価となり、税務上否認される可能性があります。
評価基準日の取り扱い
原則として、普通株式の価額はSO付与契約時点の評価額を用います。
ただし、以下のケースでは仮決算を組み、評価額を最新化する必要があります。
- 直前期末から6カ月超経過かつ純資産価額が2倍超となっている場合
- 期末以降に増資を行った場合(払込資金を資産に加算して評価)
これらの更新を怠ると、付与時の行使価額が実際の時価を下回り、要件不充足となるリスクが生じます。
発行済株式数の判定方法
普通株式の評価に使用する発行済株式数は、SO付与時点での実数を用います。
特に優先株式の分配形態によって分母が変わる点に注意が必要です。
- 非参加型(優先分のみ配分):普通株式の発行済株数のみ
- 参加型(残余分にも配分):全株式数(優先+普通)を使用
分母の判定を誤ると、普通株式の1株当たり価額が過小評価され、要件違反となるおそれがあります。
評価額がマイナスの場合の扱い
純資産価額がマイナスとなり、普通株式の評価額が0円になる場合でも、行使価額は備忘価額1円以上で設定する必要があります。
行使価額0円の設定は認められず、税制非適格とされるため、慎重な設定が必要です。
J-KISS型新株予約権の取扱い
残余財産の優先分配を受けられるJ-KISS型新株予約権は、経済的には優先株式と同等と扱われます。
したがって普通株式評価時には、J-KISSへの優先分配分を差し引いた残余を普通株式に配分します。
まとめ
優先株式を発行している企業がSOを設計する場合、
- 優先分配の控除
- 評価基準日の適正化
- 発行済株式数の正確な判定
- マイナス評価時の備忘価額設定
- J-KISSの優先株扱い
といった要素を正しく反映することが、税制適格性維持の前提条件です。
誤りがあれば、行使時に最大55%課税される「税制非適格SO」となり、制度設計の意義が失われます。