従業員向けストックオプション(新株予約権)を導入している会社では、従業員の退職時に当該ストックオプションをどのように整理するかが、必ず実務上の検討事項となります。
本稿では、退職に伴うストックオプションの消滅処理について、会社法上の整理と登記実務の観点から、代表的な考え方を体系的に整理します。
1.退職時のストックオプション消滅は、どのように構成できるか
退職によりストックオプションを存続させない場合、実務上は大きく次の三つの構成が考えられます。
(1)新株予約権者による放棄という整理
最もシンプルな方法は、新株予約権者本人の意思による放棄です。
割当契約書や新株予約権の内容として、一定の事由(退職等)が生じた場合には放棄する旨を合意しているケースも見られます。
この場合、法的には「権利の放棄」により新株予約権が消滅したと整理されます。
(2)行使条件を満たさなくなった結果としての消滅
ストックオプションの行使条件として、
「行使時点において、発行会社またはその関係会社の役職員であること」
といった要件を定めている例は少なくありません。
このような設計の場合、退職により行使条件を充足しなくなり、結果として新株予約権が行使不能となり、会社法上消滅するという整理になります。
(3)取得条項に基づく会社取得と、その後の消却
実務で最も多く採用されているのが、取得条項を利用する方法です。
具体的には、
- 一定の事由(退職等)が生じた場合に、会社が新株予約権を無償取得する
- 会社が取得した新株予約権を、機関決議により消却する
という二段階の手続によって、新株予約権を整理します。
2.消滅に伴う登記と添付書類の考え方
退職に伴い新株予約権が消滅した場合には、新株予約権の内容変更として登記が問題となる場面があります。
消滅理由別の登記実務上の整理
| 消滅の構成 | 原則的な添付書類の考え方 |
|---|---|
| 放棄 | 添付書類不要(代理申請の場合は委任状) |
| 行使不能 | 添付書類不要(代理申請の場合は委任状) |
| 取得条項に基づく取得+消却 | 消却を決議した機関の議事録等 |
放棄・行使不能については、商業登記法上、消滅を直接証する書面の添付が求められていないため、形式上は無添付での申請が可能と整理されています。
一方、消却を行う場合には、消却を決定したことを証する書面が必要となります。
3.放棄・行使不能を採用する場合の実務上の注意点
放棄や行使不能という構成を採用する場合、登記のタイミングに注意が必要です。
新株予約権の消滅による変更登記は、原則として消滅日から2週間以内に申請しなければならないとされています。
退職日が従業員ごとに異なる場合、その都度変更日が発生することになり、結果として退職のたびに個別の登記申請が必要となる可能性があります。
また、変更登記には登録免許税が発生するため、対象者が多い場合には、事務負担・コスト負担の両面で無視できない問題となります。
4.なぜ実務では「取得+消却」が選ばれるのか
こうした事情から、特に従業員数が多い会社やスタートアップでは、
取得条項に基づき会社がまとめて新株予約権を取得し、その後任意のタイミングで消却する方法が選択されることが一般的です。
この方法であれば、
- 退職の都度、個別に登記を行う必要がない
- 消却のタイミングを会社側でコントロールできる
という実務上のメリットがあります。
5.退職を見据えたストックオプション設計の重要性
退職時の整理をスムーズに行うためには、発行時点での設計が極めて重要です。
特に注意すべきなのは、取得条項の内容です。
実務上は、新株予約権の「全部」ではなく「一部」を取得する設計となるケースが多く、その場合には、
- 一部取得であること
- 取得対象となる範囲や算定方法
を新株予約権の内容として明確に定めておく必要があります。
取得条項の構成が不明確なまま発行されている例も散見されますが、将来の取得・消却局面で手続や解釈に迷いが生じる原因となります。
6.まとめ
従業員の退職に伴うストックオプションの消滅処理は、
単に「消せばよい」という問題ではなく、法的構成・登記実務・コストを含めた制度設計の問題です。
実際の退職発生時に慌てることのないよう、
ストックオプションの発行段階から、将来の消滅処理まで見据えた設計を行うことが重要といえます。
ストックオプションや新株予約権の設計・運用・登記実務について検討が必要な場合には、専門家に相談しながら進めることが望ましいでしょう。
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