ストックオプション目的で発行される新株予約権には「公正価額」という概念があります。
会社法施行前には明確に意識されていなかった論点ですが、現在では新株予約権自体に経済的価値があるとされ、登記や開示にも影響を与える重要要素となっています。
特に上場準備企業においては、発行のタイミングを誤ると、計画そのものに影響を及ぼすケースもあり得ます。本稿では、公正価額の基本と、上場準備企業が直面しやすいリスクについて整理します。
公正価額とは何か
- 新株予約権自体に価値があるという考え方から導かれる評価概念
- 計算には「ブラック=ショールズモデル」等のオプション評価モデルを用いる
- 上場会社であれば市場株価を基に算出可能だが、非上場会社ではゼロとされるのが原則
この公正価額は、発行時の登記事項そのものには必ずしも表れませんが、
- 「資本金の額の計上に関する証明書」
- 有価証券報告書(有報)
などを通じて数値として扱われるため、発行手続と密接に関連します。
登記実務における取扱い
- 新株予約権行使による「資本金等増加限度額」は、
行使価額+新株予約権の公正価額で算出されます。 - ところが、議事録には公正価額の記載がなく、登記実務では「資本金の額の計上に関する証明書」に記載することで対応しています。
- 法務局は自己申告ベースで登記を受け付けますが、司法書士としては会社側の誤記載リスクを考慮し、有報・プレスリリース・委任状記載など複数資料で確認するのが実務上の安全策です。
上場準備会社における失敗事例
ある未上場会社がIPOを目前に控えてSO発行を検討した際、株主総会決議の内容が会社法施行前の形式のままで、かつ公正価額の扱いが不明確でした。
- 公正価額を0円で良いのかどうか判断できず、修正決議が必要に
- 上場前の貴重なタイミングを逃し、SO発行を断念
- 従業員にとっても大きな損失(IPO後の株価高騰を享受できず)
このように、発行タイミングと決議内容の不備がIPO計画に深刻な影響を与える場合があります。
実務上の留意点
- 早めに専門家に相談する
- 証券会社の指導を待つのではなく、登記・税務の観点から司法書士・会計士に事前確認
- 決議内容の適法性確認
- 会社法施行後の要件に沿っているか必ずチェック
- 公正価額の算定・記録
- 発行会社が上場会社であれば必ず数値化、非上場であっても評価方針を明示
- IPO前の一度きりのタイミングを逃さない
- 発行の遅れは「従業員インセンティブの喪失」に直結
まとめ
新株予約権の公正価額は、発行会社の規模や上場準備段階によって扱いが変わるものの、登記・税務・証券審査のすべてに関わる重要概念です。
上場前の限られたタイミングでのSO発行では、決議内容・公正価額の扱い・登記実務の整合性を欠くと、取り返しのつかない損失を招く可能性があります。実務上は制度と手続を横断的にアドバイスできる専門家の関与が不可欠です。IPOを目指す企業は、ぜひ早めに相談体制を整えることが肝要です。当法人グループは、設計・評価・登記までトータルサポートを提供しています。お気軽にご相談ください。