新株予約権を発行した企業では、発行後に譲渡・相続・組織再編などが発生することがあります。
その際に必ず確認すべきなのが、新株予約権原簿の名義書換です。
名義書換は、株主名簿の書換とよく似ていますが、新株予約権の場合は「証券の発行があるかどうか」で手続きが根本的に変わる点が特徴です。
この違いを理解していないと、権利者の把握ができなくなったり、将来の権利行使の際に不整合が生じるおそれがあります。
名義書換のポイントは 証券の有無 に尽きます。
1 新株予約権証券が発行されている場合
まず、会社が新株予約権証券を発行しているケースです。
この場合、証券の種類によって手続きが異なります。
(1)記名式新株予約権証券
記名式の場合、名義書換が必要になります。
そして最大の特徴は、
譲受人だけで名義書換を行うことができる点です。
理由は、証券そのものが権利者を示し、証券の記名情報の変更によって権利者が確定するためです。
(2)無記名式新株予約権証券
無記名式の場合は、原簿への名義記載が不要になります。
無記名という性質上、権利者を特定する情報を持たず、
証券の所持=権利者と扱われるためです。
そのため、原簿に個別の名義書換を記録する必要はありません。
2 新株予約権証券を発行していない場合(一般的なSOなど)
ベンチャー企業・スタートアップで導入されるストックオプションなど、多くのケースでこちらに該当します。
証券を発行しない場合、
名義書換には譲渡人と譲受人の双方が関与する必要があります。
これは、証券によって権利が表章されているわけではなく、
原簿の記載が権利者の根拠となるためです。
必要となるもの
- 譲渡人と譲受人の共同申請
- 契約書など譲渡の事実を確認できる資料
- 原簿の書換に必要な情報(氏名・住所など)
証券の有無によって名義書換の主体が変わる点は、実務で最も誤解の多い部分だといえます。
3 名義書換を怠ると何が起きるか
企業側のリスクは次のとおりです。
- 権利者の正確な把握ができなくなる
- 譲渡後の権利行使時に、原簿情報と実態が一致しない
- 将来の資本政策・希薄化計算に影響が出る
- 監査法人・投資家から指摘される可能性
新株予約権は、株式に転換する可能性のある「将来株主」。
原簿が不正確であれば、株主構成の把握にも影響し、企業価値評価にも関わります。
4 まとめ
新株予約権原簿の名義書換は、
証券の種類によって手続きがまったく異なる
という点が最大のポイントです。
- 記名式証券 → 譲受人のみで書換可能
- 無記名式証券 → 書換不要
- 証券不発行 → 譲渡人・譲受人の共同で書換が必要
新株予約権の管理は、将来の株主構成・権利行使に直結するため、原簿の正確性が不可欠です。
特にストックオプションを付与する企業は、原簿管理のプロセスを社内で明確にしておくことが求められます。
