新株予約権を発行する際には、会社法上「発行価額」を定める必要があります。
この発行価額は、会計上の「公正価額」と密接に関係しており、両者の関係を正しく理解することが実務上重要です。
発行価額と公正価額の基本的な考え方
- 発行価額とは、付与対象者が新株予約権を取得するために払い込む金額をいいます。
- 公正価額とは、発行される新株予約権そのものの価値(理論価格)をいいます。
発行価額が公正価額と同額であれば、経済的に中立な発行と評価されます。
一方、発行価額が公正価額を下回る場合には、経済的に有利な条件とされ「有利発行」に該当するおそれがあります。
会計上の取扱い
次のように整理されています。
- 無償ストックオプションの場合
→ 発行価額は0円。新株予約権の公正価額全額を株式報酬費用として認識。 - 有償ストックオプションの場合
→ 対象者が支払った発行価額が公正価額より低い場合、その差額分を株式報酬費用として認識。
→ 発行価額が公正価額以上の場合は、費用計上は不要。
このように、公正価額と発行価額の差額が会計上の費用認識額を左右します。
公正価額の算定方法
公正価額は、発行時点の株価や権利行使期間などを基に算定されます。
提供コンテンツでは、「ブラック・ショールズ・モデル」などの理論的算定式が登場しますが、
登記実務上は、算定過程や理論式を登記する必要はなく、決議時点での結果値を明示することが求められます。
かつては「計算式をそのまま登記しなければならない」とされた時期もありましたが、
現在は具体的価額で登記することが認められる運用に戻っています。
実務上の留意点
- 発行価額が公正価額を下回る場合は、有利発行となり、株主総会の特別決議が必要になる可能性がある。
- 無償発行であっても、公正価額に相当する金額を会計上費用として認識する。
- 決議書・登記書類では、算定方法よりも「最終的に決定した価額」を明確に記載すること。
発行価額と登記
登記上、「発行価額」は新株予約権の内容として記載されます。
「公正価額」は会計処理上の用語であり、登記事項ではありません。
ただし、発行価額の合理性を説明する根拠として、公正価額の算定過程を社内記録として保存しておくことが推奨されます。
まとめ
新株予約権の発行価額は、会社法上の決定事項であり、会計上の公正価額との比較によって実質的な発行の適否が判断されます。
無償発行・有償発行のいずれの場合も、発行価額と公正価額の差額が費用処理や有利発行該当性に影響するため、
法務・会計両面の整合を確保しておくことが重要です。
