新株予約権の発行に際しては、会社法上「新株予約権の内容」として登記すべき事項が細かく定められています。
その中でも実務で特に混乱が生じやすいのが、行使条件と行使期間です。
一見すると細かな記載方法の違いですが、補正や決議のやり直しにつながることもあるため、発行会社・司法書士の双方にとって注意が必要です。
行使条件 ― 定め方の自由と限界
新株予約権の行使条件は、会社法上明文で「内容」とされてはいませんが、実務上は新株予約権の性質を規律する要素として扱われ、登記事項とされています。
実務でよくある行使条件
- 従業員・役員であること(資格要件)
- 一定の業績条件の達成
- 譲渡制限条項
注意点
- 「その他取締役会の決議で定める」といった抽象的な定め方は不可(具体的に判別できないため登記できない)
- 「一部行使を認めない」といった条件は形式的に定められることが多いが、実際には当然の結果であり、記載の意義は限定的
行使期間 ― 決議で明示すべき事項
記載方法の例
- 「2025年10月1日から2030年9月30日まで」
- 「割当日から5年間」
後者のように「割当日基準で●年間」とすることも可能とされていますが、法務局によっては、登記は具体的に計算しなおし「2025年10月1日から2030年9月30日まで」と記載するよう指導される場合もあります。
実務上のリスク
- 行使条件を不明確に定める → 登記補正命令の対象
- 行使期間を株主総会で具体的に定めていない → 補正リスク
行使条件の不備であれば補正で済む場合もありますが、行使期間の不備は新株予約権の発行そのものを揺るがしかねないため、法務局の指摘に従い厳格に対応することが必須です。
まとめ
- 行使条件は「抽象的でなく具体的に」定め、契約書や取締役会決議に委ねる形は避ける。
- 行使期間は株主総会決議で具体的に確定させる。
- 不備があると補正や決議やり直しに直結し、ひいてはSO発行のスケジュールやIPO準備にも重大な影響を与える。
新株予約権の登記事項は、一見形式的な記載に見えても、発行決議の有効性や投資家保護に直結する核心部分です。実務では「多少抽象的でも良いだろう」とせず、確実に登記可能な形で決議・記載を行うことが肝要です。