目的別に整理する社内向け・社外向け新株予約権
新株予約権は、一定の条件のもとで株式の交付を受けることができる権利です。株式会社では、株式発行と並ぶ手法として、新株予約権が利用されることがあります。
本稿では、新株予約権を「発行の目的」という観点から整理し、社内向け・社外向けそれぞれの位置づけと、新株予約権発行に伴う手続の流れを確認します。
新株予約権の基本的な仕組み
新株予約権とは
新株予約権とは、企業が発行する株式を、あらかじめ定められた価格で取得できる権利です。
権利者が新株予約権を行使すると、その時点の株価にかかわらず、定められた価格で株式の交付を受けることができます。
行使期間の定め
新株予約権には、行使できる期間が設定されます。
行使期間を経過すると、新株予約権は失効します。
無償ストックオプション(税制適格)の場合には、
付与決議の日後2年を経過した日から、付与決議の日後10年を経過する日までの間に行使しなければならない
とされています(租税特別措置法第29条の2第1項第1号)。
目的① 社内向けに発行する新株予約権(ストックオプション)
ストックオプションとは
社内向けに発行される新株予約権は、ストックオプションと呼ばれます。
取締役や従業員が、一定の価格で自社株を取得できる権利です。
有償型と無償型
ストックオプションは、金銭の払込みを伴うかどうかによって区分されます。
- 無償型(無償税制非適格型ストックオプション)
行使時に給与所得課税、株式譲渡時に譲渡所得課税 - 有償型
株式譲渡時に譲渡所得課税
無償型のうち、一定の要件を満たしたものは、税制適格型ストックオプションとされ、行使時点での給与所得課税が免除されます。
利益が生じる構造
ストックオプションによる利益は、株式を売却した際の売買差益(キャピタルゲイン)です。
株価が上昇した後に権利を行使し、その後株式を売却した場合、その差額が利益となります。
目的② 新株予約権による資金調達
新株予約権無償割当(ライツオファリング)
ライツオファリングは、既存株主に対して新株予約権を無償で割り当てる方法です。
株主は、期限内に新株予約権を行使して株式を取得するか、新株予約権を売却するかを選択できます。
新株発行による発行済株式数の増加に伴い、1株あたりの価値が低下する可能性がありますが、ライツオファリングでは株主に選択肢が与えられます。
新株予約権付の融資・社債
新株予約権は、融資や社債と組み合わせて用いられることがあります。
- 新株予約権付融資
金融機関が新株予約権を取得し、企業に資金を提供する方法 - 新株予約権付社債
社債に新株予約権を付与したもので、転換社債型とも呼ばれます
新株予約権付社債では、新株予約権が行使されると、社債が株式に転換されます。
目的③ 新株予約権による買収防衛策
敵対的買収と新株予約権
株式は市場取引や相対取引により取得されるため、経営陣の同意を得ない形で株式が買い集められる場合があります。
このような行為は敵対的買収と呼ばれます。
無償割当を用いた防衛策
敵対的買収への対応として、買収者のみが行使できない条件を付した新株予約権を、既存株主に無償で割り当てる方法があります。
これにより、買収者の議決権割合が低下します。
信託型ポイズンピル
信託型ポイズンピルは、将来的な敵対的買収に備え、あらかじめ新株予約権を発行して信託銀行に預ける方法です。
敵対的買収が行われた場合、信託銀行から既存株主に新株予約権が付与されます。
新株予約権の有利発行
有利発行とは、株主以外の第三者に対して、通常より有利な条件(無償を含む)で新株予約権を発行することをいいます。
有利発行により新たな株主を募ることができますが、既存株主の持株比率が低下するため、株主総会の特別決議による承認が必要とされています。
新株予約権発行に伴う影響
株式の希薄化
新株予約権が行使されると、発行済株式数が増加します。
その結果、1株あたりの価値や議決権割合が低下する可能性があります。
株価への影響
発行済株式数の増加により、株式の需給関係が変化し、株価が下落する場合があります。
新株予約権発行の手続の流れ
募集事項の決定
新株予約権の発行にあたり、以下の事項を定めます。
- 新株予約権の対象者
- 行使時に発行される株式の数および種類
- 行使時に増加する資本金および資本準備金
- 割当日
- 行使価額
- 行使期間
- 取得条項(ある場合)
- 払込方法(払込不要の場合はその旨)
決議機関
公開会社では取締役会決議により募集事項を決定できます。
非公開会社では株主総会の特別決議が必要とされます。
非公開会社で取締役会を設置している場合、募集事項の決定を取締役に委任することができます。
割当・原簿・登記
募集事項決定後、申込みを受けて割当を行います。
新株予約権を発行した後は、新株予約権原簿を作成し、本店に備え置きます(会社法第249条)。
また、新株予約権の発行時および行使時には、登記が必要とされています。
まとめ
新株予約権は、社内向けにはストックオプションとして、社外向けには資金調達や買収防衛策として発行されます。
発行にあたっては、その目的に応じた設計と、株式の希薄化や手続の流れを踏まえた対応が求められます。
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