新株予約権付融資(ベンチャーデット)は、金融商品会計基準に基づき「区分法」で処理することが原則です。
しかし、評価方法や配分根拠を巡って監査法人との見解が一致しないまま進めると、IPO準備の段階で大きなリスクを抱えることになります。
そのため、論点シートを作成し、事前に合意を得ることが実務上の重要ポイントとなります。
1. 論点シートの目的
- 評価方針を明文化して社内・監査法人間で認識を統一
- 会計処理の根拠を可視化し、後日の修正リスクを回避
- IPO審査で指摘されやすい「一貫性の欠如」を予防
2. 論点シートに盛り込むべき内容
- 契約概要
- 融資金額・金利・返済条件
- 新株予約権の行使条件・行使期間
- 会計基準の適用範囲
- 金融商品会計基準を適用
- SO会計基準の特例を適用しない旨の整理
- 評価方法の選定理由
- 比率配分法を採用するか、残余アプローチとするか
- オプション価値またはプレーンローン金利の評価を先行させる根拠
- 実効金利計算の方法
- 割引差額の償却原価法による期間配分
- 利息費用を予算に反映させる手順
- 開示・内部統制との関係
- Ⅰの部や有報との整合性
- 社内稟議・議事録・評価資料の保存方法
3. 実務上の進め方
- ドラフト段階で監査法人と共有
- 「この前提で処理を進めてよいか」を確認
- 論点が残れば次回までに双方で調査
- 合意内容を文書化
- 論点シートに監査法人コメントを反映
- 承認印または合意日付を明記
- 社内・主幹事への展開
- 論点シートを基に社内経理体制を調整
- 主幹事証券にも共有し、IPO開示方針にブレが出ないようにする
4. 監査法人対応での注意点
- 「ゼロ評価」には慎重に:新株予約権に価値がある状況でゼロとする場合、経済合理性の説明責任が求められる
- 評価モデルのパラメータを明確に:ボラティリティや割引率は、算定根拠を必ず記録
- 早期合意が最良の防御:発行後に論点を持ち越すと、過年度修正やIPO延期のリスクにつながる
まとめ
- 新株予約権付融資の会計処理は金融商品会計×区分法
- 論点シートで契約内容・評価方針・会計処理根拠を明文化
- 監査法人との早期合意が、IPO準備企業にとって最大のリスクヘッジ