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新株予約権付融資は“SO会計”では処理しない、区分法前提の実務ガイド

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新株予約権(SO)

資金調達環境が厳しい局面で、融資(デット)+新株予約権(エクイティ)を組み合わせるスキームが広がっています。
ただし、これをストック・オプション会計(SO会計)の特例
で処理してしまうと、P/L・B/Sや開示に歪みが生じ、IPO直前での過年度修正やスケジュール延期に発展するリスクがあります。
本稿は、実務で判断を誤りやすいポイントを最短コースで整理します。

1. 金融商品会計×「区分法」で処理する

  • 性質の把握:融資(金融負債)と新株予約権(払込資本を増やし得る部分)の複合金融商品
  • 処理モデル:融資と新株予約権が単独で存続(返済後も権利が残る設定が一般的)→ 転換社債の「一括法」は不適。「区分法」で負債部分と権利部分を分ける
  • SO会計の特例は不適用:SO会計は“財貨・サービスの対価としてのオプション付与”に関する枠組み。新株予約権付融資は金融商品領域に属し、本源的価値ゼロ特例は使えない。

ここを誤ると、利息費用の期間配分も、新株予約権の純資産計上も抜け落ちます。

2. 区分法の進め方、評価と配分の実務

2-1. 配分アプローチ

  • 比率配分法:借入金・新株予約権の“合理的見積額”比率で按分
  • 残余アプローチ(実務で主流):どちらかの時価を先に合理的に測り、残りを差額で決定

金利が明らかに低く設定されている等、新株予約権に価値が内在する場合は、残余アプローチを選びやすい。

2-2. “先に測る対象”の選び方

  • 新株予約権を先に評価:オプション評価(例:Black-Scholes/二項モデル)。パラメータの妥当性(ボラティリティ、期間、配当、金利)の根拠付けを文書化。
  • 借入金を先に評価:新株予約権が“付かない”プレーンローンの想定金利で将来CFを割引(現在価値)。外部金利が取れない場合は、内部モデル(同格社債スプレッド、WACC等)で補完し、監査と合意。

監査人と「評価方針メモ」を先に握ると、後工程が格段にスムーズです。

3. 仕訳の骨子(イメージ)

初度認識(借入時)

  • 借入金 / 現金(受入総額)
  • 新株予約権(純資産)/(差額配分)

期間配分(償却原価法・実効金利法)

  • 支払利息(実効利息)/借入金(簿価の積み増し)

ポイント:契約金利の利息に加えて、割引差額の利息費用がP/Lで走る
予算反映を欠くと予実乖離の原因になります。

4. ありがちな誤りとリスク

  • SO会計の特例で“費用ゼロ”処理:利息費用未計上、純資産(新株予約権)過小計上。重要性次第で過年度遡及上場延期リスク。
  • 新株予約権価値をゼロ見積り:金利優遇の実態(信用補完)と矛盾。経済合理性の説明責任を問われる。
  • 実効金利の期間配分漏れ:P/L上ぶれ→公開価格算定(PER×Earnings)へ影響。

5. 契約・評価・開示のチェックリスト(IPO視点)

契約(Term Sheet)

  • 行使価格の根拠・行使期間(融資期間と切離し)
  • 早期返済・コベナンツ違反時の権利の扱い
  • 希薄化(潜在株式比率)上限管理

評価・会計

  • 先行評価対象(新株予約権 or 借入金)の選定理由と文書化
  • パラメータの取得源・内部統制
  • 実効金利・償却原価法の予算織込み

開示・合意形成

  • Ⅰの部/有報/目論見書の整合性
  • 監査法人・主幹事と事前合意(論点シート)
  • 稟議・議事録・評価レポートの一式ファイル化

6. ミニケース・金利が“妙に”低い

  • 提示金利が同条件の市場金利より明らかに低い
    → 新株予約権の価値が対価に内在している可能性が高い
    権利価値を先に評価し、残余を借入金へ配分
    → 以後、実効金利で利息費用を期間配分。予算・開示へ反映

7. 税務・会社法の取扱い

  • 税務:割引差額の期間配分の可否は、適用法令・個別事情で取扱いが分かれ得るため、顧問税理士・当局見解の確認が前提
  • 会社法(会社計算規則):新株予約権の額は適切な価格で増加計上する枠組み。区分法の結果(権利価値)を反映する整理が一般的。

8. まとめ“早めの三者合意”が最大の予防線

  • 会計枠組みは金融商品会計×区分法が基本線。
  • 評価は残余アプローチを軸に、外部算定またはプレーンローン現在価値で合理化。
  • 実効金利の費用化新株予約権の純資産計上を確実に。
  • 契約・評価・開示の各フェーズで、監査/主幹事/社内経理の合意を前倒しで確保する。

付録・社内稟議に貼れる「ワンページ要約」

  • 目的:デット+新株予約権の資金調達(即時希薄化を抑えつつ資金確保)
  • 会計方針:金融商品会計/区分法。権利価値を先に外部評価→残余を借入金へ配分
  • 影響:P/Lは実効金利用益が増加、B/Sは純資産(新株予約権)計上+借入金簿価の積み増し
  • 体制:監査・主幹事と論点シートで事前合意、評価パラメータを文書化
  • 期限:発行前に方針合意、予算反映、開示ドラフトまでセットで準備