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新株予約権原簿の「本当の役割」とは何か?実務で迷いやすいポイントを整理

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新株予約権(SO)

1 なぜ「新株予約権原簿」が重要なのか

新株予約権そのものについては多くの企業が理解している一方、「新株予約権原簿」について明確に説明できる担当者は驚くほど少ない印象があります。

しかし実務では、

  • 資金調達
  • IPO準備
  • ストックオプション(税制適格・非適格)
  • M&A(デューデリジェンス時の権利確認)
  • 新株予約権の譲渡・相続・名義変更
    など、ほぼすべてのSO関連手続きで原簿の正確性が問われます。

会社法249条は、発行後速やかに原簿を作成する義務を課しています。
原簿は“作っておけば良い”帳簿ではなく、権利関係の根拠資料として会社法上の形式的要件を担うものです。

IPO直前に「原簿が不備で、過去のSO発行の整合性が取れない」という指摘が入るケースも珍しくありません。

2 そもそも新株予約権とは(実務的まとめ)

新株予約権とは、あらかじめ定められた条件で会社の株式を取得できる権利です。
ストックオプション、第三者割当型新株予約権、買収防衛策型の新株予約権など、目的に応じて設計が大きく異なります。

ポイントは次の三つです。

論点実務的な意味
権利行使の任意性権利者は行使しない選択も可能
行使価額資金調達額・税務・希薄化計算に直結
譲渡制限種類ごとに譲渡可否・会社法の適用が異なる

つまり、新株予約権の「発行条件」「譲渡制限」「行使履歴」が誤って管理されると、将来の株主構成にも影響しうるため、原簿が極めて重要になります。

3 新株予約権原簿の役割

企業が作成する新株予約権原簿は、次の二つの機能を担います。

① 権利者の特定(誰が何を保有しているか)

これは株主名簿と同様の役割で、

  • ストックオプションの付与状況
  • 短期・中長期インセンティブの付与履歴
  • 譲渡・相続・失効
    といった権利者の推移を管理します。

② 権利内容の確定(どのような権利か)

新株予約権は「権利内容」が命。
原簿には、行使価額・行使期間など、将来の権利行使の根拠情報が記録されます。

IPO審査でも監査法人から「原簿と発行決議内容が一致しているか」を厳密に確認されます。

4 原簿を使用する場面(実務で本当に多い箇所だけまとめ)

新株予約権原簿は以下のような場面で必ず参照されます。

  1. 新株予約権を発行したとき
  2. 譲渡が発生したとき(名義書換)
  3. 権利者が退職し、失効条項の確認が必要なとき
  4. 税制適格SOの行使管理(勤続要件の確認)
  5. IPO審査・監査法人レビュー
  6. FA・VC・投資家のDD(デューデリジェンス)

特にストックオプションでは、

  • 付与決議
  • 契約締結
  • 登記
  • 原簿
  • 税務
    の整合性が一点でもずれると、税務否認や発行過程の修正が必要になることがあります。

5 譲渡があったときの原簿対応(証券の有無で変わる)

新株予約権の譲渡に伴う原簿対応は以下のとおりです。

新株予約権証券必要な原簿対応誰が行うか
記名式新株予約権証券を発行名義書換譲受人のみで可能
無記名式新株予約権証券原簿の記載不要不要
証券不発行(通常のSOなど)名義書換譲渡人・譲受人の共同

IPO準備の会社は新株予約権証券を発行しないケースがほとんどですが、
その場合は譲受人と譲渡人が共同で名義書換請求を行う方式となります。

6 新株予約権原簿の「記載事項」

会社法249条は、新株予約権原簿に記載すべき事項を三つに分類して規定しています。
実務向けに整理すると次のとおりです。

無記名式の新株予約権証券を発行する場合

記載する内容

  • 証券番号
  • 無記名新株予約権の内容および数

※無記名式は権利者の識別ができないため、権利者情報の記載は不要。

無記名式の新株予約権付社債に付与する場合

記載する内容

  • 新株予約権付社債券の番号
  • 無記名新株予約権の内容および数

上記以外(通常のストックオプション等)

記載する内容:

  • 新株予約権者の氏名・住所
  • 新株予約権の取得日
  • 新株予約権証券(または新株予約権付社債券)の番号
  • 新株予約権の内容および数

IPO準備企業の大半はこの③が該当します。

7 原簿管理の実務Tips(IPO準備企業向け)

新株予約権原簿の実務でよく見かけるミスと、避ける方法をまとめます。

  1. 付与日=取得日が誤って記録されている
     →役員等への無償SOは「契約締結日」が取得日。
  2. 失効条項の発効日を誤記
     →退職日と失効日が誤っているケースが非常に多い。
  3. 行使期間の記載漏れ
     →行使期間が決議と違うと税務否認リスク。
  4. 条項改定(行使価額調整など)が原簿に反映されていない
     →株価算定書・行使価額調整条項改定との整合性が重要。

8 まとめ

新株予約権原簿は、単なる内部帳簿ではなく、
会社の権利関係を確定させる法律上の義務です。

新株予約権の発行は、資金調達・インセンティブ設計・買収防衛など企業にとって非常に重要な場面で行われますが、それらを適切に管理・証明するためには原簿の正確性が必須となります。

発行時だけでなく、

  • 譲渡
  • 退職による失効
  • 条項変更
    といったイベント発生時にも原簿の更新が必要です。

新株予約権を導入する企業担当者は、原簿管理のプロセスを社内で標準化し、法務・経理・人事と連携して正確な運用を行うことが重要です。


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