ストックオプション(SO)は大きく分けると「無償(税制適格/非適格)」と「有償」に分かれます。
このうち、企業が制度設計を行う際に特に迷うのが 「税制適格SO」か「有償SO」か の選択です。
どちらも人材インセンティブとして有効ですが、税務・会計・法務上の取り扱いに明確な違いが存在します。
基本的な仕組みの違い
項目 | 税制適格SO | 有償SO |
---|---|---|
発行価額 | 無償 | 公正価額で払込必要 |
行使価額 | 発行時の株価以上 | 発行時の株価以上 |
対象者 | 取締役・従業員等(一定要件あり) | 制限なし(第三者含む) |
上限額 | 年間最大3,600万円(令和6年改正後) | 上限なし |
譲渡 | 原則禁止 | 譲渡可(ただし条件設定可) |
税務上の取扱い
税制適格SO
- 権利行使時には課税なし
- 株式売却時に譲渡所得として課税(20.315%)
→ 大きな税制メリットあり
有償SO
- 権利行使時の課税なし
- 株式売却時に譲渡所得として課税(20.315%)
- ただし、発行時に「有償で取得した新株予約権」自体が資産として扱われる
→ 実務的には 「非課税で譲渡所得課税一本化」 され、課税繰延効果は税制適格SOと類似
会計上の違い
税制適格SO(無償)
- 発行時に新株予約権の公正価値を測定し、株式報酬費用として損益計上
- セーフハーバー(純資産価額評価)を用いた低額設定の場合、行使価額と公正価値との差額を費用処理
有償SO
- 権利者から公正価額で払込があるため、会社にとっては費用認識なし
- そのためPLへの影響を避けつつ資本政策を実現できる
法務上の違い
- 税制適格SO
- 発行対象者や条件は租税特別措置法に従う
- 有償SO
- 税制要件に縛られないため、柔軟な設計が可能
実務での選択ポイント
- 税制メリット重視 → 税制適格SO
- IPOを視野に入れたベンチャー企業の役員・従業員インセンティブに最適
- 会計費用を避けたい/外部人材・投資家も対象にしたい → 有償SO
- 成熟企業やM&Aスキームに活用しやすい
まとめ
税制適格SOと有償SOは、
- 税務上はどちらも売却時課税一本化という共通点がある一方で、
- 会計上の費用認識の有無や対象者の範囲に大きな違いがあります。
企業が導入する際には、
- 「税制メリットを重視するのか」
- 「会計インパクトを抑えつつ柔軟に設計するのか」
という観点から選択することが重要です。