公正な価格算定と実務の注意点
ストックオプションは近年有償ストックオプション(有償SO)の活用が進んでいます。特に資本政策の柔軟性や税務対策の観点から導入を検討する企業も増加傾向にあります。
しかし、有償SOを発行する際に最も慎重を要するのが「発行価額の決定」です。本コラムでは、有償SOの価格決定方法について、実務上の論点を整理します。
1. 有償SOの「発行価額」とは?
有償ストックオプションでは、新株予約権の取得対価として一定額の金銭を払込むことになります。この発行価額は、会社法上は任意で設定可能ですが、不当に安価または高額な設定は以下のようなリスクを生じます。
- 株主代表訴訟リスク(既存株主に対する不利益)
- 税務否認リスク(払込価額が「著しく低廉」とされるケース)
2. 適正価額の算定方法
実務では、次のいずれか、または複数の手法を併用して価格を設定することが一般的です。
(1) ブラック=ショールズ・モデル
- 株価の変動性や行使価格、存続期間等をもとに算出する方式
- 上場企業やベンチャーキャピタル向け評価で多用される
(2) DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法
- 将来のキャッシュフロー予測を基に企業価値を算出
- 中長期視点での価値算定に有効
(3) 取引事例比較法・株式譲渡事例法
- 直近の株式譲渡価格や資金調達ラウンド価格を参考に設定
いずれにしても、公正な第三者評価機関による評価書の取得が望ましいとされます。
3. 実務上の注意点
- 取締役会・株主総会での決議が必要
- 評価に用いた前提条件(株価・希薄化影響など)を明文化しておく
- 発行価額の合理性が説明可能であることを前提に資料を整備する
- 税務調査に備えた「客観的根拠」の保全が極めて重要
4. まとめ
有償ストックオプションの発行価額は、「会社が自由に決めてよい」ものではありません。公正な価格であることが、会社法・税法の双方で求められる実務要請であることを理解し、慎重に設計する必要があります。
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