役員や従業員へのインセンティブ設計として、近年は「株式報酬(譲渡制限付株式など)」と「ストックオプション(新株予約権)」の双方を導入する企業が増えています。
しかし、この2つは発行根拠・法的性質・会計処理・登記実務のいずれも大きく異なります。
本コラムでは、司法書士・法務担当の視点から、その違いを整理します。
制度の基本構造の違い
| 区分 | 株式報酬(譲渡制限付株式) | ストックオプション(新株予約権) |
|---|---|---|
| 法的根拠 | 会社法第204条の2(譲渡制限付株式の発行) | 会社法第236条以下(新株予約権) |
| 性質 | 現物支給(株式を交付) | 将来の株式取得権(権利の付与) |
| 目的 | 長期的なリテンション(定着) | 成果報酬・インセンティブ性重視 |
| 発行時の負担 | 株式の発行=即時に資本が増加 | 権利のみ付与=資本増加は行使時 |
| 権利の確定 | 原則即時(譲渡制限期間はあり) | 行使条件(勤続・業績等)を付す |
会計上の違い
(1)株式報酬
譲渡制限付株式は、交付時点で株式を発行するため、会計上は即時に費用を認識します。
発行時の株価をもとに算定した金額を「株式報酬費用」として計上します。
(2)ストックオプション
一方、ストックオプションは将来の権利付与であり、会計上は「付与時の公正価値」を評価し、権利確定期間にわたって費用を配分します。
費用認識の開始は付与日、終了は権利確定日(権利が失効しない時点)となります。
登記実務の違い
| 区分 | 株式報酬(譲渡制限付株式) | ストックオプション(新株予約権) |
|---|---|---|
| 登記の種類 | 募集株式の発行登記 | 新株予約権の発行登記 |
| 登記事項 | 発行済株式数・資本金の額 | 新株予約権の目的株式数・行使価額・行使期間など |
| 登記時期 | 発行(払込)完了後 | 付与決議後・発行時点で登記要 |
実務では、同一タイミングで両制度を併用する場合の登記事項の混同に注意が必要です。
とくに、ストックオプションは「払込期日」が存在しない点が、株式報酬との最大の違いです。
税務上の性格の違い(概要)
税務面でも扱いが異なります。
以下は一般的な取扱いの整理です(※詳細は税理士に確認要)。
| 区分 | 受給者側(所得税) | 会社側(法人税) |
|---|---|---|
| 株式報酬 | 交付時に給与所得として課税 | 給与として損金算入可 |
| 税制適格SO | 売却時に譲渡所得として課税 | 損金不算入 |
| 税制非適格SO | 行使時に給与所得として課税 | 行使時点で損金算入可 |
株式報酬は交付=課税のタイミングが一致する一方、
ストックオプションは「行使時課税(非適格)」「売却時課税(適格)」のいずれかで異なる扱いになります。
制度選択の実務的ポイント
上場準備企業やベンチャー企業が報酬制度を検討する際、次のような観点で選択することが多いです。
| 目的 | 適した制度 |
|---|---|
| 成果に応じて報いる(短期成果報酬) | ストックオプション |
| 長期在籍・経営参加を促す | 譲渡制限付株式(株式報酬) |
| IPO前後の幹部定着策 | 株式報酬+税制適格SOの併用 |
特にIPO審査においては、制度の整合性(法務・税務・会計)と開示文書の一貫性が重視されます。
どちらの制度を採用する場合でも、法令要件・契約文言・登記記録をそろえておくことが欠かせません。
まとめ
株式報酬とストックオプションは、どちらも「人材のモチベーション」を目的とした制度ですが、
法律構造がまったく異なり、登記・会計・税務・開示の取扱いも異なります。
導入に際しては、次の3点を必ず意識しましょう。
- 法務・会計・税務を分けて考えること
- 登記・決議・契約書の整合性を取ること
- IPOを見据えて社内ルール(株式報酬規程等)を整備すること
【補足】免責事項
本記事は、法令および制度の一般的な解説を目的とするものであり、特定の税務判断や会計処理を行うものではありません。
具体的な対応にあたっては、税理士・公認会計士・監査法人等の専門家にご相談ください。
