2024年4月から適用された令和6年度税制改正により、税制適格ストックオプション(SO)の制度は大幅に緩和・拡充されました。
従来の「年間1,200万円上限」や「証券会社での保管義務」といった制約が見直され、スタートアップを中心に使いやすい制度へと進化しています。
本コラムでは、改正内容を踏まえた最新の実務整理を解説します。
税制適格SOの基本
税制適格SOは、要件を満たすことで
- 権利行使時に課税されず
- 株式売却時のみ譲渡所得課税(20.315%)
となる制度です。
適格要件を外れると、行使時に給与所得として最高55%課税されるため、要件充足は非常に重要です。
令和6年度改正の主なポイント
1. 年間行使価額の上限引上げ
- 改正前:1,200万円まで
- 改正後:最大3,600万円まで
- 設立5年未満:2,400万円
- 設立5年以上20年未満(非上場、または上場から5年未満):3,600万円
- 上場から5年以上、または設立20年以上:1,200万円のまま
成長途上企業に厚い支援が与えられた格好です。
2. 株式管理方法の柔軟化
従来は証券会社等への保管委託が必須でしたが、改正後は以下も選択可に:
- 発行会社自身による株式管理(譲渡制限株式に限る)
これにより、IPO前にM&AでEXITする場合も、証券会社が扱わない株式でも適格性を維持できます。
3. 社外高度人材への付与要件の緩和
- 大学教授・准教授等が対象に追加
- 実務経験年数の要件が緩和
- 未上場会社の執行役員等も対象範囲に
外部人材を巻き込んだSO設計が容易になりました。
実務での留意点
- 株主総会決議内容の確認
- 年間上限額の記載が旧制度に基づいている場合、契約変更を検討する必要あり。
- 2024年12月末までの経過措置で修正可。
- 会計処理との乖離
- セーフハーバー(純資産額等評価)を用いて低額行使価額を設定すると、会計上は公正価値との差額を株式報酬費用として計上。
- IPO準備会社は、費用インパクトを踏まえた資本政策が必要。
- 外部人材への設計
- 実務での適用範囲を人事制度に落とし込むことが重要。
- 対象者ごとの契約書設計が必須。
まとめ
令和6年度改正により、税制適格SOは
- 上限額の拡大
- 管理方法の緩和
- 外部人材の対象拡大
と、大きく使いやすくなりました。
一方で、会計処理や株主総会決議との整合性を怠ると、税制適格要件を満たさず、行使時に重課税を受けるリスクも残ります。
IPOやM&Aを見据えた企業は、法務・税務・会計を横断的に検証し、早めに制度設計を見直すことが不可欠です。