ストックオプション制度は、スタートアップを中心に優秀な人材の確保や長期的なインセンティブ設計のために広く活用されています。
中でも「税制適格ストックオプション」は、行使時課税が繰り延べされ、売却時課税のみとなる優遇制度として注目されています。
ただし、税制適格に該当させるには細かく複雑な要件をすべて満たす必要があり、形式的な不備で非適格とされるリスクもあります。
本記事では、企業の導入担当者が押さえておくべき重要なポイントを、FAQ形式でわかりやすく解説します。
Q1:税制適格ストックオプションとは何ですか?
A:特定の法的要件を満たしたストックオプション制度で、行使時には課税されず、売却時の譲渡所得としてのみ課税される仕組みです。
従業員にとっては大きな税負担軽減となるため、企業にとっても魅力的な報酬制度の一つです。
Q2:どのような要件を満たせば「税制適格」になりますか?
以下のすべての要件を満たす必要があります(一部抜粋)
要件区分 | 内容概要 |
---|---|
対象者の要件 | 上場会社またはその子会社に継続勤務する取締役・従業員等であること(社外取締役・顧問などは対象外) |
行使価格要件 | 付与時点の株式時価以上であること |
行使期間要件 | 付与日から2年以上経過した後に行使可能であること |
年間行使限度 | 1年間の行使株式の評価額が1,200万円以内であること(累計3,600万円まで) |
保管委託要件 | 行使により取得した株式について、証券会社等に対する保管委託契約を締結していること(※詳細はQ3) |
Q3:保管要件は緩和されたと聞きました。本当に委託しないと非適格ですか?
A:従来は、株券発行+証券会社への保管委託+従業員の証券口座開設が必須とされ、実務上大きな負担となっていました。
しかし、2023年の国税庁Q&A(問11)により、保管委託要件の“実質的緩和”が示されました。
具体的には、以下の条件を満たす場合、形式的な株券保管委託がなくても要件を満たすと解釈されます
- 会社が株式の異動情報を金融商品取引業者等に提供していること
- 会社が株式の異動を確実に把握できる措置を講じていること(例:行使株式の譲渡先を指定、違反時に株式を没収・違約金請求できる旨を契約書に明記)
※この緩和により、未上場企業でも形式的な証券会社との委託契約をせずに、要件を満たす運用が可能になったと評価されつつあります。
Q4:税制適格SOと非適格SOの違いはどこにありますか?
比較項目 | 税制適格SO | 非適格SO |
---|---|---|
課税タイミング | 売却時のみ | 行使時+売却時 |
税負担 | 軽減される(譲渡所得扱い) | 高額になる傾向(給与課税+譲渡) |
対象者 | 従業員・取締役限定 | 幅広い対象に設定可能 |
柔軟性 | 要件に制限あり | 柔軟な制度設計が可能 |
社会保険料 | 非課税 | 原則課税対象(行使時) |
Q5:税制適格SOを導入する際の注意点は何ですか?
A:以下のような点に特に注意が必要です
- 時価評価の誤り(→ 行使価格が要件未満)
- 形式面(保管委託、契約書記載内容など)の不備
- 対象者の範囲誤認(社外役員・退職者などへの誤付与)
- 保管要件の誤解(証券会社が対応していない、契約していない等)
- M&A時の行使スケジュール管理(未上場企業での例外運用)
いずれも、制度設計の初期段階で弁護士・会計士・税理士等の専門家の助言が不可欠です。
【まとめ】
税制適格ストックオプションは、うまく活用すれば企業と従業員双方にとって非常にメリットの大きい制度です。
しかし、その反面、形式的・実質的な要件を満たさなければ、非適格扱いとなり思わぬ税負担が生じるリスクも存在します。
特に保管要件については、近年の解釈緩和を踏まえた制度設計が求められます。
導入を検討される場合は、必ず専門家の支援のもと、要件を一つひとつ丁寧にクリアする設計を心がけましょう。