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税制適格ストック・オプションとは?要件・メリットと令和6年度税制改正のポイント

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ストック・オプションのなかでも「税制優遇が受けられるタイプ」としてよく話題に上るのが、いわゆる「税制適格ストック・オプション(税制適格SO)」です。

言葉だけを聞くとシンプルですが、

  • そもそもどんな仕組みなのか
  • どのような税務メリットがあるのか
  • 具体的にどのような要件を満たさないといけないのか
  • 有償ストック・オプションとはどこが違うのか

といった点は、実務でも誤解されやすいところです。

本コラムでは、ストックオプション・新株予約権に関する実務を前提に、税制適格SOの基本構造から令和6年度税制改正の内容までを整理します。IPO準備企業やスタートアップで制度設計を検討している経営者・管理部門の方の「全体像の把握用」として使っていただける内容を意識しています。

1 税制適格ストック・オプションの基本構造

1-1 ストック・オプションとは何か

ストック・オプションは、役員や従業員などが、あらかじめ決められた価格(権利行使価額)で自社株式を取得できる権利(新株予約権)を付与する制度です。
業績向上や株価上昇にコミットしてもらうためのインセンティブとして、IPOを目指すベンチャー企業を中心に広く利用されています。

一般的なイメージとしては、

  • 付与時:権利だけをもらう(株式そのものはまだ取得しない)
  • 行使時:あらかじめ決めた価格で自社株式を購入する
  • 売却時:株価が上がっていれば、その差額が利益になる

という流れになります。

1-2 税制適格SOとはどんな仕組みか

ストック・オプションのなかでも、租税特別措置法第29条の2が定める要件を満たしたものを「税制適格ストック・オプション」と呼びます。

税制適格SOの最大の特徴は、次の2点です。

  • 権利行使時(株式を取得したタイミング)には課税されない
  • 株式を売却したときに生じる利益のみが、株式譲渡所得として約20%強の税率で課税される

これに対し、要件を満たさない「税制非適格ストック・オプション」の場合は、

  • 権利行使時
    株式の時価と権利行使価額との差額が給与所得として課税(最高税率は住民税等を含めるとおおむね55%前後)
  • 売却時
    株式譲渡益として約20%強の税率で再度課税

という二重課税の構造になります。

2 税制適格ストック・オプションの税務メリット

2-1 課税タイミングの違い

税制適格SOと税制非適格SOの課税タイミングの違いは、次のように整理できます。

区分権利行使時(株式取得時)売却時(株式譲渡時)
税制非適格SO給与所得として課税あり株式譲渡益として課税あり
税制適格SO課税なし株式譲渡益として課税あり

税制適格SOでは、株式を保有している間は課税されず、売却したときに初めて課税されます。
「まだ売却していないのに税金だけ先に発生してしまう」というキャッシュフロー上の負担を避けられる点が大きなメリットです。

株式譲渡益の計算は、基本的に次の式で求めます。

(株式の売却価格 − 権利行使価額)× 売却株数 − 売却手数料等

税制非適格SOのように「行使時の給与所得」と「売却時の譲渡所得」を分けて計算する必要がないため、計算自体も比較的シンプルです。

2-2 税率水準の違い

税制非適格SOの場合、行使時に給与所得として課税されるため、他の給与収入や役員報酬と合算され、所得税・住民税を合計すると最高でおおむね55%程度の税率が適用され得ます。
売却時にも株式譲渡益として約20%強(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税)の税率がかかりますので、トータルの税負担が重くなりがちです。

これに対し、税制適格SOでは、

  • 行使時:課税なし
  • 売却時:株式譲渡益に約20%強の分離課税

で完結するため、高い給与税率を回避できる点が、役員・従業員側の大きなメリットとなります。

3 税制適格ストック・オプションの要件

税制適格SOとして税務上認められるためには、租税特別措置法第29条の2で定められた要件をすべて満たす必要があります。要件を1つでも外してしまうと、その新株予約権全体が税制非適格SOとして扱われてしまう点に注意が必要です。

実務で押さえておきたい主要な要件を、整理して解説します。

3-1 ①発行価額(無償発行であること)

税制適格SOは、いわゆる「無償ストック・オプション」に分類されます。
新株予約権を付与された役員・従業員は、オプション取得時点で払込を行いません(発行価額はゼロ)。

この点が、オプション取得時にプレミアムを支払う「有償ストック・オプション」との大きな違いになります。

なお、無償であっても、後述の付与対象者や権利行使価額など、他の要件を満たしていなければ税制適格SOにはなりません。

3-2 ②付与対象者(誰に付与できるか)

付与対象者は、原則として次の範囲に限定されています。

  • 発行会社またはその子会社の
    • 取締役
    • 執行役
    • 使用人

加えて、一定の条件の下で、事業計画に基づき主務大臣が認定した「社外の高度専門人材」に対して付与する場合にも税制適格SOの対象になり得ます。

一方で、次のような者は原則として付与対象外とされています。

  • 社外役員・監査役(会社法上の監査役等)
  • 発行済株式総数の3分の1超を保有する大口株主と、その親族・配偶者

外部人材や大株主も含めてインセンティブを設計したい場合には、税制適格SO一本で組むのではなく、有償ストック・オプションや譲渡制限付株式など、他のスキームとの組み合わせも検討することになります。

3-3 ③権利行使期間

権利行使期間については、税制上、次のように定められています。

  • 原則
    新株予約権の付与決議の日から2年を経過した日以後に開始し、
    同日から10年を経過する日までの間に権利を行使できること

つまり、付与後すぐには行使できず、付与決議から2年以上経過した後から、最長でも10年以内の一定期間に限って株式取得が可能となるイメージです。

さらに、令和5年度税制改正により、設立から5年未満の非上場会社については、上限を「10年」から「15年」に延長できる特例が認められています。
上場までに時間がかかる可能性が高いスタートアップにとっては、この行使期間の緩和は実務上の使い勝手を大きく改善するものです。

3-4 ④権利行使価額(行使価格は時価以上)

税制適格SOにおける権利行使価額(行使価格)は、「付与契約締結時の1株当たり時価以上」に設定する必要があります。

  • 時価より低い価格で行使できるようにしてしまうと、行使した瞬間に経済的利益が確定し、その時点で給与所得として課税されるべきと考えられるため、税制適格SOの要件から外れてしまいます。
  • 税制適格SOは、あくまで「将来の株価上昇分」に対するインセンティブを付与する仕組みであり、付与時点からのただ乗り利益は認めない、という考え方に立っています。

未上場会社の場合の「時価」の算定方法は、将来の税務リスクにも直結しますので、評価方法や前提条件について、税理士や評価機関とすり合わせておくことが不可欠です。

3-5 ⑤譲渡禁止(第三者への譲渡は不可)

税制適格SOについては、新株予約権そのものを第三者に譲渡してはならない旨を契約で定める必要があります。
一般的な株式と異なり、オプション権利の売買や、親族・配偶者などへの贈与は認められません(相続に伴う承継については別途の定めがあります)。

「自ら会社の成長にコミットした者が、最終的に株主としてリターンを得る」というコンセプトを崩さないための要件と考えると分かりやすいと思います。

3-6 ⑥権利行使限度額(令和6年度改正のポイント)

税制適格SOには、「1人あたりの年間の権利行使価額に上限がある」という制約もあります。

従来は、単純に「年間1,200万円以下」であることが要件とされていましたが、令和6年度税制改正により、会社のステージに応じて実質的な上限が拡大されました。

イメージとしては次のような整理です(趣旨レベルの説明です)。

  • 設立から5年未満の株式会社が付与する場合
    権利行使価額を半分に圧縮して判定する仕組みにより、
    実質的には「年間2,400万円」程度まで税制優遇の対象にできる
  • 設立から5年以上20年未満で、非上場会社または上場後5年未満の上場会社が付与する場合
    権利行使価額を3分の1に圧縮して判定する仕組みにより、
    実質的には「年間3,600万円」程度まで優遇対象とできる

条文自体は抽象的な書き方になっていますが、実務としては、
「成長途上の会社ほど、1人あたりに付与・行使できる枠が広がった」
と押さえておくと、設計時の感覚がつかみやすくなります。

なお、上限を超えて行使した部分については、その年に行使した分全体が税制適格SOとして扱われなくなるなど、取り扱いがシビアになります。行使計画を立てる際には、税理士等と連携して慎重にシミュレーションを行うことが重要です。

3-7 ⑦保管委託・株式管理(令和6年度改正のポイント)

税制適格SOの行使により取得した株式については、従来、証券会社など金融商品取引業者に保管を委託することが求められていました。
非上場のスタートアップが証券会社に管理を依頼するのは実務上ハードルが高く、「制度はあるが現実には使いづらい」という声があったところです。

令和6年度税制改正により、次の2つの管理方法から選択できるようになりました。

  • 従来どおり、証券会社等への保管委託を行う
  • 一定の条件のもとで、発行会社自身が譲渡制限株式として管理する

これにより、「自社内で株主名簿・譲渡制限の管理をしている非上場会社」が、税制適格SOを導入しやすくなっています。

4 令和6年度税制改正に伴う経過措置

令和6年度税制改正では、権利行使限度額や株式の管理方法など、税制適格SOの枠組みそのものに手が入ったため、既にストック・オプションを発行済みの会社向けに経過措置も設けられました。

大まかな整理としては次のとおりです。

  • 改正前の要件を満たしていた税制適格SOについては、原則として改正後も税制適格SOとして取り扱う
  • そのうえで、
    • 年間の権利行使価額の限度額を新しい水準に合わせて引き上げる
    • 株式の管理方法を証券会社から発行会社自身による管理に切り替える
      など、改正内容を既存契約に反映させたい場合には、一定の期間内に契約内容の変更等を行うことが求められた

実務的には、

  • 自社がこれまで発行してきた新株予約権の一覧を棚卸しする
  • それぞれについて
    • どの年度の税制に基づく要件で設計しているか
    • 令和6年度改正のメリット(行使枠拡大や会社管理スキームへの移行)を享受したいか
      を整理したうえで、必要に応じて契約変更や株主総会決議の有無を専門家と検討する、という流れになります。

5 税制適格SOと有償ストック・オプションの違い

税制適格SOと並んで、近年よく用いられているのが「有償ストック・オプション」です。
どちらも最終的には「売却時の株式譲渡益に約20%強の税率で課税される」点は共通していますが、仕組みや従業員側の負担感は異なります。

5-1 金銭的負担の違い

項目税制適格SO有償ストック・オプション
新株予約権取得時払込不要(無償)オプション価格の払込が必要
権利行使時課税なし課税なし(適正価額の場合)
株式売却時譲渡益に約20%強譲渡益に約20%強

税制適格SOは無償で付与できるため、従業員側に初期の金銭負担が生じません。
一方で、有償ストック・オプションは権利取得の段階でお金を払うことになるため、「自らリスクをとって株価上昇に賭ける」という性格が強く出ます。

5-2 行使期間・設計の自由度

  • 税制適格SO
    税制上、行使可能期間は「付与後2年超〜10年(一定の場合15年)」という制約があります。
  • 有償ストック・オプション
    税制上の行使期間の制限はなく、会社側の裁量で柔軟に設計できます。

IPOまでのタイミングが読みづらい場合、税制適格SOだけで組もうとすると行使期間との整合が問題になることがあります。
そのため、「コアメンバーには税制適格SO、その他の層には有償SO」といったハイブリッド設計もよく見られます。

5-3 従業員のモチベーションへの影響

  • 税制適格SO(無償)
    無償で付与されるため、制度の意義や仕組みを丁寧に説明しないと、「どれだけお得なのか」が従業員に伝わりにくい側面があります。
  • 有償SO
    自ら資金を投じて権利を取得するため、「元を取りたい」「株価を上げたい」という意識が働きやすく、インセンティブとしては強く機能しやすいと言われています。

どちらが優れているというより、「どの層に、どの程度のリスクとリターンを持たせたいか」という人材戦略の観点から選択・組み合わせるイメージです。

6 税制適格ストック・オプション行使後の確定申告

税制適格SOに該当する新株予約権を行使し、その後株式を売却して利益が出た場合、原則として確定申告が必要になります。

譲渡益の計算は、前述のとおり、

(株式の売却価格 − 権利行使価額)× 売却株数 − 売却手数料等

で求めます。

申告にあたっては、

  • 確定申告書(第一表・第二表)
  • 株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書
  • 必要に応じて、特定口座年間取引報告書や行使状況が分かる書類

などを準備し、申告書第三表(分離課税用)の欄に記載していくのが一般的な流れです。

なお、税制適格SOと税制非適格SOを併用している場合には、
「どの株式がどのスキームから生じたものか」が不明確だと計算・申告が複雑化します。
付与時・行使時から、銘柄ごと・付与回ごとの管理をきちんと行っておくことが重要です。

7 導入を検討する企業が押さえておきたいポイント

最後に、税制適格ストック・オプションを導入・見直しする際に、経営陣・管理部門として意識しておきたいポイントを整理します。

  • 税制適格SOは「税金上のメリットが魅力的な無償ストック・オプション」だが、要件は厳格であり、設計を誤ると一気に税制非適格になってしまう
  • 令和5年度・6年度の税制改正により、スタートアップが使いやすい方向に制度が拡充されている一方、
    どの付与分がどのルールの適用を受けているのかを整理しておかないと、行使・申告の段階で混乱しやすい
  • 税制適格SO・有償ストック・オプション・譲渡制限付株式など、それぞれメリット・デメリットが異なるため、
    「誰に・どのポジションの人に・どのスキームを組み合わせるか」という全体設計が重要になる
  • 特にIPO準備企業では、税務だけでなく、開示書類・J-SOX・人事制度全体との整合も踏まえて設計しておくと、後からの修正コストを抑えやすい

税制適格ストック・オプションは、うまく設計すれば、現金報酬では実現しづらいレベルのインセンティブを、税務面も意識しながら提供できる非常に強力な制度です。
一方で、条文や通達の細かい要件を読み飛ばしてしまうと、思わぬタイミングで「実は税制非適格でした」という事態にもなりかねません。

自社のステージやIPOの見通し、人材戦略を踏まえたうえで、会社法・税法・会計の観点からバランスの良いスキームを選択することが重要です。導入や見直しを検討される場合には、ストックオプション・新株予約権に詳しい専門家に一度相談のうえ、貴社の実情に合った形で制度設計を進めていただくことをお勧めします。


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