ストック・オプションの導入を検討する企業の多くが関心を持つ制度のひとつが「税制適格ストック・オプション」です。インセンティブとしての効果だけでなく、税務上の取り扱いが大きく変わるため、設計段階で制度の全体像を正確に理解しておく必要があります。
本コラムでは、税制適格ストック・オプションの基本構造、メリット、要件、そして近年の税制改正のポイントを整理します。
1 税制適格ストック・オプションとは何か
ストック・オプションは、役員や従業員があらかじめ定められた価額で自社株式を取得できる権利です。
そのうち、一定の要件を満たすものが「税制適格ストック・オプション」とされ、権利行使時には課税されず、株式を売却したタイミングでのみ課税される点が特徴です。
税務負担を抑えつつ、企業の成長と株価上昇が報酬に直結する仕組みとして、多くの成長企業が採用しています。
2 税制適格SOの主なメリット
2-1 課税タイミングが1回に限定される
税制非適格SOでは、
- 権利行使時
- 株式売却時
の2回課税が発生します。
税制適格SOでは、売却時の1回のみであり、行使時点では課税されません。
税負担の発生時期を遅らせられる点で、受給者にとって大きなメリットがあります。
2-2 税率が低く抑えられる
税制非適格SOの行使時に生じる利益は「給与所得」とされ、最大55%の税率が適用される可能性があります。
一方、税制適格SOでは売却益のみが分離課税(約20%)となり、負担が大きく軽減されます。
3 税制適格SOとして認められるための7つの要件
税制適格SOとして扱われるには、法令で定められた要件をすべて満たす必要があります。
3-1 ① 発行価額
無償で付与されることが前提です。
ただし、無償であれば自動的に適格となるわけではなく、後述の要件を全て満たす必要があります。
3-2 ② 付与対象者
対象は、発行会社および子会社の
- 取締役
- 執行役
- 使用人
に限定されます。
社外役員や、大口株主(1/3超保有者)とその親族は対象外です。
一定の高度専門人材については、事業計画を基礎とした認定制度により対象に含めることが可能です。
3-3 ③ 権利行使期間
原則として、
付与決議の日から2年以上10年以内の期間で行使できることが必要です。
また、設立5年未満の非上場会社の場合、行使期間の上限を15年まで延長できる特例があります。
3-4 ④ 権利行使価額
行使価額は付与契約締結時点の“時価以上”に設定する必要があります。
時価より低い価額を設定すると、付与時点で利益が生じるため、適格要件を満たしません。
3-5 ⑤ 譲渡禁止
税制適格SOは、権利そのものを第三者に譲渡することが禁止されています。
親族への贈与も認められず、相続の場合のみ承継が可能です。
3-6 ⑥ 権利行使限度額
年間の権利行使価額には上限があります。
現在は次のような仕組みが導入されています。
- 設立5年未満の会社:実質2,400万円が上限
- 設立5年以上20年未満の一定の会社:実質3,600万円が上限
(判定方法は法令上独特の計算式によるものですが、本コラムでは趣旨のみ扱います。)
3-7 ⑦ 保管委託
従来は株式を証券会社等に保管する必要がありましたが、現在は一定の要件を満たす場合に限り、発行会社自身が株式を管理することも可能になっています。
4 税制改正と経過措置の整理
令和6年度の税制改正では、
- 権利行使限度額の拡大
- 発行会社による株式管理の解禁
など、制度を利用しやすくする変更が加えられました。
また、一定の条件を満たす契約については、改正後の制度に移行する経過措置も用意されています。
とくに既存SOを保有する企業は、契約内容の確認が重要です。
5 税制適格SOと有償SOの違い
実務で誤解が多いポイントを3点に絞って整理します。
5-1 金銭的負担
税制適格SOは無償付与。
有償SOは契約時に払込が必要です。
5-2 行使期間
税制適格SOは行使期間が法令で制限されています。
有償SOは柔軟に設定できます。
5-3 インセンティブ効果
無償付与の税制適格SOは制度理解が重要で、説明が不十分だと効果が発揮されにくい面があります。
有償SOは自己負担がある分、コミットメントが高まりやすいといわれます。
6 税制適格SOを行使した場合の確定申告
売却益が生じた場合には、分離課税で確定申告を行います。
計算式は次のとおりです。
(売却価格 − 権利行使価額)× 株数 − 手数料
必要書類としては、申告書(第一表・第二表・第三表)や計算明細書などが一般的です。
7 まとめ
税制適格ストック・オプションは、
- 行使時課税なし
- 売却時のみ約20%で課税
という仕組みにより、受給者にとって極めて有利な制度です。
一方で、制度として認められるためには7つの要件をすべて満たす必要があり、
設計を誤ると税制非適格扱いとなる可能性があります。
企業が導入を検討する場合は、制度の趣旨と要件を踏まえ、
組織の成長段階や人材戦略に合わせた設計が不可欠です。
ストックオプションの設計及び評価は、ストックオプションアドバイザリーサービス株式会社までお問い合わせください。
